PC市場に大きなうねりが迫っている。2025年10月に控える「Windows 10」のサポート切れや、文部科学省のGIGAスクール構想によって全国で一斉導入された端末の更新による特需が見込まれ、「AI PC」への期待もにわかに高まりつつある。新型コロナ禍における需要拡大からの反動以降、低調が続く市場は新たな局面を迎えるだろうか。第2回は、中堅パートナーへの支援プログラムの展開や、PC周辺機器と組み合わせた販売でビジネスの拡大を目指す米Dell Technologies(デル・テクノロジーズ)日本法人に市場戦略を聞く。
(取材・文/大畑直悠)
サプライチェーンの安定性に強み
「Windows11」への移行にともなう受注動向に関して、執行役員の三井唯史・クライアント・ソリューションズ統括本部ビジネス開発事業統括製品本部長は「23年は特に大きく盛り上がったイメージはないが、24年に入ってから徐々に増加したり、案件が大型化したりしてきている。当社は出荷する製品(のOSライセンス)を全てWindows 11に切り替えているが、24年の後半にかけて企業のPCのリプレースが進み、出荷台数はさらに伸びていくだろう」と展望する。
三井唯史 執行役員
製品ラインアップの中でも特に、ハイブリッドワークなどによる持ち運びを念頭に置いた、14型で軽量さと堅牢性を兼ねた重量1~1.5キログラムほどのモバイルPCに注力する。4月に発売した「Latitude 7350 デタッチャブル」は、本体からキーボードを切り離してタブレットとしての利用も可能で、シーンに合わせて柔軟な使い方ができる。
Latitude 7350 デタッチャブル
また、リモート会議での利便性の向上にも力を入れる。三井執行役員は「当社はウルトラプレミアム、プレミアム、ミッドレンジ、エントリーとそれぞれの製品をそろえているが、最新機種ではプレミアムに当たる7000番台でも、タッチパッドにミュートや画面シェアのボタンが付くなど、従来はウルトラプレミアムで提供していた機能が反映されている。機能的にも価格的にも7000番台は最も顧客にミートする」と語る。
拡大を見込む需要に応える上では、サプライチェーンの安定性で強みを発揮できるという。三井執行役員は「国内では(Windows 10のEOS時期の)ギリギリまで使い倒して一気に買い替えが進む傾向があり、顧客が欲しいタイミングで製品を入手できない恐れがある」と指摘。その上で、「コロナ禍では、半導体やCPUが不足する中でも当社はしっかりとシェアを伸ばした。パートナー経由だけではなく、ハイタッチ営業もしているため、顧客の需要や課題を直接聞き、サプライチェーンに正確にフィードバックできることが強みだ」と訴える。
パートナーに対する支援策としては、ディストリビューターや大手のリセラーだけではなく、中堅リセラーの支援を主な目的としたプログラム「RISE」を開始している。対象の在庫製品を購入・販売したリセラーにクーポンを発行し、次回以降の購入時に割引を受けられるようにする。また、モニターなどでもシェアを伸ばしているとして、キーボードやヘッドセットといった幅広いPC周辺機器もプログラムに盛り込み、PCと組み合わせた間接販売を推進する考え。製品サポートに関しても、PCと周辺機器のサポート窓口を一元化できることなどをパートナーにアピールする。
GIGA端末更新は「顔が見える営業」を推進
GIGAスクール端末の更新については、「一般論になるが、GIGAスクールの開始当初は端末の導入自体が目的になってしまった部分がある。PCのスペックやブランドとしての価値、サポート体制の整備などが無視されがちだったのではないか」との見方を示し、「安価なモデルが導入されたり、間に入るパートナーのサポートを金額に落とし込めなかったりと、“モノ”の手配にだけ偏ってしまった。教育現場でのGIGA端末の故障などが報じられたのは、そのためだったのでは」と指摘する。同社では「壊れにくさなどの製品の強みや、サポートの品質といった面で訴求に力を入れて案件を獲得したため、顧客からの満足感は高い」と胸を張る一方で、各自治体に対して価値を伝えきれなかった反省もあるという。
今後に控えるリプレースに向けては、前回の市町村ごとに調達する方式ではなく、都道府県ごとの共同調達が推進されることを好機とみて、品質面での強みを訴求する。
三井執行役員は「メーカーの顔が見える営業に力を入れる。出荷された後もハードウェアに対する信頼をしっかり持ってもらえるよう、ハイタッチ営業やパートナー各社との連携を深める」と力を込める。
注目を集めるAI PCについて、三井執行役員は「生成AIはユーザーごとの好みや期待に応じたアウトプットをいち早く出すことが求められるため、エッジ側での処理が重要だ」と話す。「生成AIに関する技術の変化は早く、今何ができるかというよりは、未来に向けた準備をするという意味で、当社も最新のテクノロジーをいち早く世に出し顧客の生産性の向上の支援をしつつ、経験値を蓄えていく」と意気込み、今後も製品展開に力を入れる方針だ。イベントやショールームなどで顧客が実際に製品に触れられる機会の創出も図る。