PC市場に大きなうねりが迫っている。2025年10月に控える「Windows 10」のサポート切れ(EOS)や、文部科学省のGIGAスクール構想によって全国で一斉導入された端末の更新による特需が見込まれ、「AI PC」への期待もにわかに高まりつつある。新型コロナ禍における需要拡大からの反動以降、低調が続く市場は新たな局面を迎えるだろうか。第7回はDynabookに市場戦略を聞く。国産企業である強みを生かして顧客の声を反映した製品展開を進めており、新製品の投入でニーズに応える。教育市場ではChromebookに本格参入する。
(取材・文/大畑直悠)
高性能モデルの需要が増加
PC市場のニーズについて、執行役員国内PC事業本部副事業本部長の武田篤幸・国内PC事業企画部長は「リモートワークの普及でモバイルノートの需要が高まっている。また、コロナ禍以降、企業は人材への投資を重視する傾向があり、情報ツールも性能のいいPCを用意する傾向があり、当社がプレミアモバイルノートと呼ぶ高性能モデルへの需要が高まっている」と解説する。
武田篤幸執行役員(左)と石田康弘部長
Windows 11搭載PCへのリプレースの需要に関しては、すでに波が来ていると紹介し、武田執行役員は「これまで何度かWindowsのEOSを経て、大手企業を中心に土壇場で対応するのは難しいという経験から今回は早めに対応が進んでいる。中堅企業に関してはちょうど今頃から始まっている」と説明する。
同社は11月28日、新製品として14型モバイルノート「dynabook X74」を市場に投入した。バッテリーが劣化した際に、ユーザー自身の手で新品と入れ替えできる「セルフ交換バッテリー」の仕組みを採用。消耗により駆動時間が短くなったり、充電に必要な時間が長くなることを防止し、場所を選ばない働き方を支援する。バッテリー着脱式でありながら、厚さ約19.9ミリメートル、重さ約1.1キログラムを実現した。
dynabook X74
武田執行役員は「(新製品は)顧客からの要望を反映させて開発した。国産企業の強みは顧客との近さだ。何が一番の課題かを受け止め、性能や耐久性、軽さなどのバランスをとっている」と強調する。
今後の販売戦略としては、パートナーのイベントなどに積極的に参加し、連携を強めていく考え。武田執行役員は「パートナーは重要な存在。需要の変動などを細かく見極め、予測などでパートナーと密接に連携できるようにする」と意気込む。
また、同社のPC以外にも対応する「PCリプレース支援サービス」を展開し、移行にかかる時間を短縮したり、顧客の負担を軽減したりする。PC管理や、スキャン情報などを可視化しセキュリティー対策の状態の把握を支援する「PCアセットモニタリングサービス」や、運用を支援する「LCM運用サービス」など、さまざまなサービスも訴求する方針だ。
GIGA第2期はパートナーとの連携を重視
GIGA端末としては、新たにデタッチャブル型PC「Dynabook Chromebook C70」を12月上旬から販売する。第1期のChromeOSのシェア拡大を受けてラインアップに追加、Windowsを搭載する「Dynabook K70」などと合わせて拡販を目指す。第1期で寄せられた顧客からの要望を踏まえて製品を開発し、故障を防止する仕組みの提供に焦点を当てて開発した。
具体的には製品の外周に滑りにくく、耐衝撃性に優れた熱可塑性ポリウレタンを取り付けた。また、製品の角を丸くして衝撃を吸収しやすい構造とし、落下による破損リスクを低減する。さらにタブレット側にインターフェースを集約し、故障の原因となる物質が混入しないように配慮した。
国内PC事業本部の石田康弘・公共・文教営業部部長はGIGA端末のコンセプトとして「第1期から一貫しているのは、画面サイズは10.1型で児童・生徒に1グラムでも軽いもの使ってもらうこと。加えて、デタッチャブル型を採用し、校外学習などでも持ち運べるように使い勝手の良さを追求している。タブレット部分はキーボードドック接続時に背面スタンドなしで自立できる形状とし、落下リスクの軽減や机を広く使えるようにしている」と紹介する。
Chromebook C70について、石田部長は「前回、大幅にシェアを伸ばしたChromebookについては、販売パートナーからさまざま要望をいただく中で市場への投入を決めた。21年にもシャープと共同開発した『Dynabook Chromebook C1』を提供したが、販売チャネルに関してはシャープとの兼ね合いで制約もあった。今回は当社の商流で扱うことができるという意味で、Chromebookの本格参入になる」と話す。その上で、「全国各地のパートナーと協力しながら、一緒に提案を進めていきたい」と呼び掛けた。
AI PCに関して武田執行役員は、「非常に期待している市場で、積極的に取り組んでいる」とした上で、「AI PCはPCの使い方を変える。単に画像処理を高度化するような機能だけではなく、業務に入り込んユーザーをサポートする製品をいち早く出したい」と力を込める。今後の普及には「より高性能な処理ができるようにして、エッジAIが市場として立ち上がるようにしなくてはならない」との見方を示す。