「最近、まったくコードを書いていないんですよ」
彼は、三度の飯よりコードを書くのが好きな人物だ。そんな彼が、コードを書かなくなったのは、AI駆動開発の品質が劇的に向上したからだという。
「自分に勝るとも劣らない品質のコードを書くようになったんですよ」
経営者でもある彼は、これまでオフショアにアウトソースしていたコード生成と検証作業を、全てAIに切り替えた。結果として、圧倒的な「スピード」と「品質の均一化」が実現した。そして、精神的な負荷も軽減したという。
「AI相手なら、『また変更ですか?』といった反応はありません。人間的な気遣いが一切不要になりました」
AIが生成するコードの品質が高いため自社での検証作業も止め、テスト専門の外部ベンダーに委託するようになったという。
彼は、採用方針も変えようとしている。新しく採用したのは、対話を通じて相手の意図を汲み取り、それを言語化する能力に優れた人材だ。ただし、コードを書いたことはない。
「中途半端にコードを書ける人材よりも、良いコードを書けるくらいです。言語化能力が高ければ、適切な仕様書を書けます。これからは、エンジニアにとって、最も重要なスキルになっていくでしょう」
このような状況になれば、ユーザー企業によるシステム内製が加速することになるだろう。つまり、SIerにとっての本当の競合は、同業他社ではなく、AIという強力な武器を手に入れた「ユーザー企業」そのものになる。
「自分たちが生き残るには、サブスクリプションのような継続的な収益を確保できるビジネスをつくること。そして、システムをつくることではなく、どのようなシステムをつくればいいのかを、お客様に提言できる能力を持つこと。そんな技術力を磨いていかなければ、私たちは、自分たちの存在意義を失ってしまいます」
あと、1~2年もすれば、これが当たり前になるだろう。SIerにとって、人月ビジネスからの脱却は、もはや待ったなしの経営課題である。
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義

斎藤 昌義(さいとう まさのり)
1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する