「そんなものはおもちゃだ」――後に世界を変える技術は、たいてい最初そう言われる。例えば、メインフレーム全盛時代、アマチュア向けのホビー用品と見られていたマイコン。その後PCとして発展し、今や業務システムはもちろん、スーパーコンピューターすらPC由来の技術の延長線上にある。
インターネットも、最初は「研究者のおもちゃ」という評価だった。商用サービスが本格化した1990年代初め、一部の評論家は「世界を変えるテクノロジーだ」ともてはやしたが、業務側では「そんな不安定なネットワークで商売をするなんてあり得ない」という反応がむしろ普通だった。
比較的最近の技術としては、iPhoneおよびAndroidデバイスの登場で本格化したスマートフォンも、まずは個人用のエンターテインメント機器として普及し、その後業務用ターミナルとして社会を支える存在になっていった。そういえばクラウドコンピューティングも、わずか10年前には懐疑的な見方が少なくなかった。
これら一連の革新を振り返ると、共通項として浮かび上がるのは、「一部の大企業や政府レベルの機関だけのものだった力」を、個人や小規模な組織にも開放してきたという点だ。当初は実用品と見なされなかった技術も、ユーザー層の拡大につれて次第に成熟し、新たなユースケースが続々と生まれ、ビジネスにも変革をもたらしていった。
まさに今、「遊び道具」から「社会インフラ」への転換点を迎えているのが、生成AIだろう。過去の流れにならうならば、高度な技量が必要だった作業が誰でもできたり、一般の人が到底会えないその道の専門家に気軽に相談できたりする時代がそこまで来ている。
一方、あまりに強力な最新の生成AIモデルについては、一般公開を慎重に進める動きも出始めている。大衆へ開放すればより大きな発展を遂げるのは確実だが、強大な力へのアクセスを野放図に広げれば、サイバー攻撃の“大衆化”を招きかねないとの恐れからだ。
生成AIのリスクをこの先私たち人間が制御できるのか、懸念の声もあるが、今ではインターネット無しの生活が考えられないように、生成AI登場以前の社会に戻ることはない。画面の向こうへプロンプトを投げるという行為は、すでに「遊び」ではなくなりつつある。
週刊BCN 編集長 日高 彰

日高 彰(ひだか あきら)
1979年生まれ。愛知県名古屋市出身。PC情報誌のWebサイトで編集者を務めた後、独立しフリーランス記者となり、IT、エレクトロニクス、通信などの領域で取材・執筆活動を行う。2015年にBCNへ入社し、「週刊BCN」記者、リテールメディア(現「BCN+R」)記者を務める。本紙副編集長を経て、25年1月から現職。