中国から日本への団体旅行が抑制されているこの状況下においても、訪日外国人の数はコロナ禍前を超え、過去最高の水準で推移している。円安で日本が“お買い得”な行き先になっている面は否めないが、人は安くても魅力のない場所をわざわざ訪れない。オーバーツーリズムの諸問題への対応は急務だが、日本の食やカルチャー、自然などが評価されていること自体はポジティブに捉えたい。
日本を訪れた外国人からは、「この国には最新のテクノロジーが浸透し、人々の行動様式は洗練されており、社会システムは効率を追求している」といった感想が聞かれることがしばしばある。リップサービスも含まれるだろうが、確かに海外では通信回線の品質、機械や設備の故障、問題を解決しようとしない係員などに辟易することは多い。それに比べれば日本人は、平均すればテクノロジーで社会や仕事を良くしようという意欲が高いと思う。
しかしここ十数年、日本には「デジタル敗戦国」という自己認識が半ば定着している。プラットフォームは米国に、ハードウェア製造は中国に取られ、デジタル化を進めれば進めるほど貿易赤字がふくらむ。DXが叫ばれて久しいが、多くの企業や自治体はいまだ古い業務プロセスに縛られている。北欧やアジア諸国で進むIT活用の先進事例などを目にすると、日本はテクノロジーを使いこなすのが下手で、遅れた国という印象に支配されそうになる。
原因は何か。「IT音痴の中高年経営者が幅を利かせているから」といった見方もあるだろう。ただ、企業へのインターネット普及から四半世紀が経ち、社内の最高齢層でもオフィスソフトやネットをまったく使えない人は少数派になりつつある。デジタル敗戦の理由を個人のITリテラシーに帰結させると、問題の構造を見誤る恐れがある。
経営者や識者に見解を求めると、課題はテクノロジーの理解よりも、組織構造や意思決定の仕組みにある、との答えが多い。デジタル変革が必要とわかっていても、既存の業務や権限にメスを入れる労力やリスクが大きすぎて、前に進めなくなっているというのだ。であるならば、ITソリューションの提案では機能や効能の説明よりも、顧客企業の組織のどこに目詰まりがあり、変革をさまたげているのかを見極めるのに時間を割くべきだ。日本企業はITが苦手、という先入観を捨てることから始めたい。
週刊BCN 編集長 日高 彰

日高 彰(ひだか あきら)
1979年生まれ。愛知県名古屋市出身。PC情報誌のWebサイトで編集者を務めた後、独立しフリーランス記者となり、IT、エレクトロニクス、通信などの領域で取材・執筆活動を行う。2015年にBCNへ入社し、「週刊BCN」記者、リテールメディア(現「BCN+R」)記者を務める。本紙副編集長を経て、25年1月から現職。