高齢化社会は否応なしに進み、誰しもがこの問題に向き合わなければならない事態にある。要介護者が急速に増加する一方で、介護人材は伸び悩み続け、介護をめぐる状況は“ジリ貧”で深刻化している。「介護DX」を支援するIT事業者は、デジタルの力で介護の未来を変えられるか。苦境の打開を目指すプレイヤーの青写真に迫る。第1回は介護向けSaaS「カイポケ」を展開するエス・エム・エスの戦略を聞く。小規模事業者に強みを持つ同社は、DX人材が不足する顧客の「IT部門」となって経営課題の解決を目指しており、拡販にはパートナーとの連携も模索している。
(取材・文/大畑直悠 )
必要な機能をワンストップで
カイポケは介護や福祉事業者向けの「経営支援サービス」という位置付けで、保険請求・業務支援、人事・労務、金融、購買といった幅広い業務に対応する。介護・障害福祉経営支援事業本部カイポケSaaS部の川合俊也・部長は「介護の経営を支援するさまざまな機能をそろえている」点が強みになっているとする。高齢化社会の進展と共に介護DXへの注目が高まる中、介護記録や家族との情報共有といった単品のソリューションは増えているものの、事業者には単品を組み合わせて業務改善につなげるスキルを持った人材や余力がないケースが多い。カイポケはワンストップで必要な機能をまとめて提供する点に優位性があり、川合部長は「顧客としてはいろいろカスタマイズしたいというよりは、これさえ入れれば大丈夫という製品を求めている」と説明する。
川合俊也 部長
カイポケを導入する小規模な事業者の中でも、特に構成比率が高いのが在宅介護の領域だ。2000年に始まった現行の介護保険制度では、老人ホームなどの介護施設に加え、在宅介護サービスへの支援も重視されるようになった。この流れを受け、在宅介護を支援する比較的小規模な事業者向けのクラウド製品の普及が進み、カイポケも存在感を高めている。同社の26年3月期の業績をみると、カイポケを中心とした介護・障害福祉事業者分野の売上高は、前期比15%増の137億1500万円と伸長し、会員数は前期から5250事業所増え、6万800事業所となった。
介護事業者は、業界独自のビジネスフローや法要件への対応が必要で、職員の業務負荷が大きい。収益の流れだけ取り上げても、提供したサービスの対価を国民健康保険団体連合会への請求を経て受け取るという独自のサイクルがある。実際のサービス提供から入金までのスパンが長いため、それを見込んだ運営計画が必要となるわけだ。また、3年に一度は介護報酬が改定され、この対応にも手間がかかる。介護報酬関連書類の作成や介護利用者に関する情報の共有といった間接業務は日常的に発生しており、小規模事業者にとっては厳しい業務環境にある。
他方で、専門的なIT人材は不足しており、デジタルソリューションが広まりにくい面は否めない。政府では、介護報酬の令和8年臨時改定において、介護職員の賃上げの原資となる報酬を受け取る条件として、ケアプランデータ連携システムの導入を求めるなど、IT活用の機運を高めようと努めているところだ。
顧客の段階に合わせたDXを提供
販売促進に向けては、顧客との関係性を重視している。川合部長は「介護ソフトが普及する中で、顧客がどのタイミングで、どのようなニーズがあるのか把握する必要がある」とする。依然として紙をベースに業務を遂行する顧客は多く、現在は介護記録のデジタル化がニーズの中心にある。次の段階として、情報共有のデジタル化が進みつつあるとし、豊富な機能を生かして顧客の段階に応じたDXを支援する。また、強みの一つとするカスタマーサポートにも注力する。川合部長は「ただ製品の機能をそろえるだけではなく、必要なタイミングで必要なサポートを提供して『IT部門』のような役割を果たし、介護事業者がITにアクセスしやすいようにしたい」と意気込む。
パートナービジネスに関しては、ディストリビューターとの連携を視野に入れ、一部で協業も始めている。ただ、難しさも感じているとし、直販をメインとしてビジネスを広げているのが実情だ。川合部長は「前提として、中小・零細事業者を対象とするカイポケは価格が低く、(パートナーは)これだけを売るメリットを感じにくい面がある」と説明する。逆に言えば、カイポケに付随したサービスを提供できるパートナーであれば、新たな商機につながる可能性もあるということだ。
川合部長は「低価格でフラットプライスという考え方はIT活用を促すはじめの一歩としては有効だが、(介護事業者の)ニーズの多様化に対応する中で戦略を見直す段階にある」とも話し、パートナーによる付加価値の創出に期待を示す。その上で「顧客には地域で付き合いのある商流がある。このパートナーとどう連携するかは今後考えなければならない」と述べ、介護業界に対する理解や地域に根ざした販売店との協業のあり方を模索したいとする。