旅の蜃気楼

<e-Silkroad編 アジアのIT利用技術立国を目指せ>その11 新天地

2002/03/18 15:38

▼美しい街には若い人が集まる。上海は中国のモデル都市になっている。そのなかでも、とびっきり美しい場所がある。表参道、南青山のような雰囲気のおしゃれな街だ。水の流れる小径を挟み、両側にはテラスで気取ってコーヒーが飲めるカフェが並び、ライブコンサート付きのレストランは若い人が列をなしている。夜の雰囲気がまた一段と素敵だ。上海の夜になくてはならないネオンの光があたりを包み込む。晴れていても雨でも、気分は満点だ。できたらカップルで訪れたほうがいい、と付け加えておこう。この一角は、「新天地」という。今では若者が集まる街だが、このブロックは53年前から中国にとっては重要な場所だ。

▼中国共産党は新天地の裏手(どちらが裏手なんだか?)にあたる建物で、第1回全国代表大会を1949年に開催した。毛沢東が宣言文を読み上げる人形が家の中に展示してある。だから、今も全国から人が集まり、記念写真をこの建物の前で撮ることになる。

こちらは円熟カップルが目立った。新天地という名称も、ここが再び新しい中国を築く発信地であることを、主張しているかのようだ。ぜひ訪れて頂きたいスポットだ。中国の人は、ここで50年前の中国と、明日の中国の街の雰囲気と味覚を味わって、郷里に帰り、新天地を思い出して、「いつか、わが街もあのようになりたい」と思って仕事に励むことになる。ここには夢がある。

▼今、日本にそんな街があるだろうか。大きな声で「あります」と応えたい。インターネットの中に新しい街ができている。楽市楽座ができ、商売繁盛と犯罪が頻繁化しているほど、人くさいサイバーワールドができている。中国はようやく、リアルの世界で先進国に仲間入りしようとしているのである。わが国は、リアルの世界ではすでに成熟期を過ぎ、退廃期に入っている。過去10年間、成長した産業はIT関連だけといっても過言ではない。だか、そのIT産業もいまや、需給バランスを欠いて、失墜している。では市場はなくなったのか。インターネットの世界を見てみよう。この世界は経済発展の音が聞こえない。姿も見えない。無機質な世界だ。

▼浦東空港から上海の中心街に伸びるリニアモーターカーを建設する現場は力強い姿だ。音も大きい。日本では今、工事現場の姿がない、音が聞こえないサイバーワールドを建設する力強い、槌音が響いているのである。聞こえる人には聞こえ、見える人には見え、その人たちは、希望と夢を感じているのである。「今とは異次元の機能を人に提供し、夢のような使い方が実現する」。NECの小林宏治さんから、「顔の見える電話機を創りたい」と、30年前に聞いた。この人は変な人だと思ったことがある。異次元のヒューマンC&Cを今、世の中は求めている。

旅の蜃気楼(本郷発・BCN主幹奥田喜久男)
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