旅の蜃気楼

<e-Silkroad編 アジアのIT利用技術立国を目指せ>その13 札幌の技術が開花

2002/04/01 15:38

週刊BCN 2002年04月01日vol.935掲載

 

▼野球が始まった。巨人軍のホームグラウンドに、平べったいホテルができたのはいつ頃かしら。そんな昔ではないはずだ。検索エンジンのGoogleで調べてみる。「東京ドームホテル 完成」と入力して、リターンキーを押す。「東京ドームの歩み」という、そのものズバリのホームページが目の前に現れる。実に便利で早い。検索にかかった時間は0.015秒。ホテルが開業したのは2000年6月1日。ホテル内の懐石料理「たん熊」のカウンターから見る夜景は、すっかり水道橋の風物詩になった。もう1年前になる。親孝行にと思って、80歳になる巨人軍ファン(正確にいえば長島ファン)の母親をこの店に連れてきた。感動のあまり、海老のてんぷらをノドに詰まらせていた。その日、巨人軍は負けたが、上機嫌であった。

▼デジタルテレビが売れ始めている。テレビのアナログ放送も2011年が最後の年になる。デジタル化すると、情報の発信が多面的になり、視聴者は参加型の魅力的な内容を受けられる。それに先駆けて、日本テレビは3月30日の巨人軍の開幕戦から、テレビ放送のスポーツコーダーを2Dから3Dに、レベルをあげる予定だ(執筆3月27日)。3Dだから、画面に出るテロップが立体的になる。このシステムは、北海道のソフト会社の英知を集めてできている。北海道日興通信は、もう10年以上前から日本テレビの放映システムを開発支援している。今回、3Dの開発を得意とするソフト会社のマイクロネットが3D技術を提供して完成した。この両社の仲介は北海道大学工学部教授の山本強さんだ。

▼北海道は産業・学問・行政のトライアングルがうまくかみ合っている。20年前のパソコン産業の黎明期には、北大教授の青木由直さんが推進役となって、ハドソンやBUGを生んだ。今回は弟子にあたる山本さんが中核になって、新しいヒーロー企業を世に送り出そうとしている。北海道日興通信、マイクロネットなどだ。行政の中核は札幌市庁。経済局長の小川敏雄さんは、「北海道は雪の冬があるから産業を築き上げにくい。その点、ITはこのハンディの影響を受けない」。実はこのコラムのテーマである「e-Silkroad構想」を札幌市庁が丸呑みしたのも、こうした経済環境が背景にある。写真を見てほしい。ベトナム、上海ともにハードウェアの生産基地としてスポットライトがあたっている。が、大衆のパソコンの利用実態は、日本とはかけ離れている。しかし、インターネットが利用可能ならば、世界から同じ質量の情報を得ることができる。インターネットで世界から巨人の開幕戦が見られる。情報は価値を生み、産業を形成する。「e-Silkroad構想」はIT技術と文化の交流を目指している。(旅の蜃気楼 本郷発・BCN主幹奥田喜久男)
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