Letters from the World

東莞市へ民族大移動(後編)

2002/05/13 15:37

週刊BCN 2002年05月13日vol.940掲載

 台湾が空洞化するのは無理からぬ話だ。台湾で1人リストラすれば中国で10人以上の労働者が雇える。残業など時間外労働を強いても、喜びはすれど、決して文句は言わない。しかも緻密な作業に向く視力2.0の十代の女子労働者が湯水のごとく雇えるのである。東莞では経営管理を現地人に任せない。台湾人の経営者は、現地のスタッフにはトップダウン指令用の北京語(現地では普通語と呼ばれている)を、台湾人マネージャーとは、一般スタッフが聞いてもわからない台湾語をうまく使い分ける。労働争議とは無縁の工場はまさに軍隊のように機能する。

 品質条件をクリアした製品は、量産段階においては、台湾の工場によく見られるような品質のばらつきを逆に起こさないのだ。先月、台湾政府は8インチウエハー工場の中国移転を許した。こうなるとさらに空洞化は加速すると推測される。いったん中国に流れ出た資本は、台湾には2度と戻ってこない。台湾政府は中国への投資の一環として、直接投資を許されなかったため、香港やケイマン諸島、英国領バージン諸島といった、無税または低税率国を経由して投資せざるを得なかった。

 ひょんな所で資本の国際化を知ってしまった台湾の中小企業経営者たちは、必要最小限しか台湾に資本を戻さない。中国工場で儲かったカネを中国で計上すると、当局や現地のいろいろな圧力によって搾取の対象となる。中国に利益を残してはいけないのである。しかし、台湾に戻しても、今や魅力のある投資先は全然ない状況だ。結果として、香港やそれらのオフショアセンターに余剰資金が残り、魅力ある投資案件に使われる。多国籍企業の古典的なノウハウは今や、ビンロウを噛んで、ロレックスをしている、台湾の企業オーナーが普通に活用しているわけだ。(広東省東莞市発)
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