旅の蜃気楼

<e-Silkroad編 アジアのIT利用技術立国を目指せ>その21 弾丸の威力

2002/06/03 15:38

週刊BCN 2002年06月03日vol.943掲載

 

▼この連載を書くきっかけはNY911との遭遇であった。あの事件から半年後の3月、筆者は再びニューヨークを訪ねた。一週間の滞在期間中、同じ体験をした在ニューヨークの人に取材した。その一人、Aさんは建築設計会社に勤務している。彼は事件を間近で体験した。遺体捜索の現場では、ボランティアで立ち会っている。Bさんは証券情報を提供する会社で働いている。ニューヨーク証券取引所の隣で、遭遇した。200メートルほどだ。筆者を含め、あの体験では、3人とも奇妙な共通点がある。WTC崩落の音を聞いていないことだ。正確に言えば、覚えていない、といっていい。異常な体験とはこんなことをいうのだろう。アメリカはこの日、異常な体験をした。

▼軍事評論家のガブリエル・中森さんから電話がきた。「今、OSS会議に参加して帰ったばかりだ。会いたい。大変なことが世界で起きている」。5月6日から11日、ワシントンDCで開かれた会議に参加したという。OSSとはOffice of Strategic Serviceの略称。米国が第2次大戦中につくった情報機関で、CIAの前身の組織だ。その名前を使った会議にはNATOを中心とした諜報関係者が200名ほど集まった。テーマは「オープン・ソース・ソリューション」。諜報活動に必要な情報は80%が、オープンソースにある。その情報はインターネットのなかにある。ネット捜査への傾斜は、「テロリストにNY911で負けたことによる」という。アメリカはこの半年で、NATOを巻き込んでインターネット上での犯罪捜査技術の研究に取り組み、OSS会議で発表した。40か国の情報将校、治安関係者の現役OB、ハッカーも含む学者、専門家、軍事外交ジャーナリスト、それに企業の情報担当マネージャーを召集し、一週間、ホテルを借り切って行っている。口の悪い記者は「世界の元スパイと現役の年次総会だ」と書いた。全員がパソコンを持ち込んでいる。彼らはピストルと同じようにパソコンを使いこなすという。

▼中森さんの重要な指摘は、その先にある。この半年間にアメリカは世界の国と手を組んで、テロに立ち向かう同盟を結んだ。インターネットの捜査技術を高めるため、CIAはいくつものソフト会社に出資した。100%出資したインキューテルは、ネットのなかで犯人情報を追跡するソフトを発表した。アメリカはこうして開発した利用技術を惜しげもなく同盟国に公開する。テロに立ち向かう仲間を増やすには、情報の開示が最も効果的だ。こうした技術は、民間の事業や、e-Japan構想にも転用できる。ある軍事評論家は、この一連の進展を、41年のパールハーバー事件後の半年間に、空母の増強とともに、戦いに勝つために空母をいかに機動的に使うかのタスクフォース部隊を緊急に編成して、日本に立ち向かっていった当時と重ね合わせている。ハードや、インフラ整備は重要だが、絶対必要条件は「利用技術の開拓にある」といっているのだ。「インターネットは鉄砲の弾と同じ威力をもっているんですよ」と。(▼この連載を書くきっかけはNY911との遭遇であった。あの事件から半年後の3月、筆者は再びニューヨークを訪ねた。一週間の滞在期間中、同じ体験をした在ニューヨークの人に取材した。その一人、Aさんは建築設計会社に勤務している。彼は事件を間近で体験した。遺体捜索の現場では、ボランティアで立ち会っている。Bさんは証券情報を提供する会社で働いている。ニューヨーク証券取引所の隣で、遭遇した。200メートルほどだ。筆者を含め、あの体験では、3人とも奇妙な共通点がある。WTC崩落の音を聞いていないことだ。正確に言えば、覚えていない、といっていい。異常な体験とはこんなことをいうのだろう。アメリカはこの日、異常な体験をした。

▼軍事評論家のガブリエル・中森さんから電話がきた。「今、OSS会議に参加して帰ったばかりだ。会いたい。大変なことが世界で起きている」。5月6日から11日、ワシントンDCで開かれた会議に参加したという。OSSとはOffice of Strategic Serviceの略称。米国が第2次大戦中につくった情報機関で、CIAの前身の組織だ。その名前を使った会議にはNATOを中心とした諜報関係者が200名ほど集まった。テーマは「オープン・ソース・ソリューション」。諜報活動に必要な情報は80%が、オープンソースにある。その情報はインターネットのなかにある。ネット捜査への傾斜は、「テロリストにNY911で負けたことによる」という。アメリカはこの半年で、NATOを巻き込んでインターネット上での犯罪捜査技術の研究に取り組み、OSS会議で発表した。40か国の情報将校、治安関係者の現役OB、ハッカーも含む学者、専門家、軍事外交ジャーナリスト、それに企業の情報担当マネージャーを召集し、一週間、ホテルを借り切って行っている。口の悪い記者は「世界の元スパイと現役の年次総会だ」と書いた。全員がパソコンを持ち込んでいる。彼らはピストルと同じようにパソコンを使いこなすという。

▼中森さんの重要な指摘は、その先にある。この半年間にアメリカは世界の国と手を組んで、テロに立ち向かう同盟を結んだ。インターネットの捜査技術を高めるため、CIAはいくつものソフト会社に出資した。100%出資したインキューテルは、ネットのなかで犯人情報を追跡するソフトを発表した。アメリカはこうして開発した利用技術を惜しげもなく同盟国に公開する。テロに立ち向かう仲間を増やすには、情報の開示が最も効果的だ。こうした技術は、民間の事業や、e-Japan構想にも転用できる。ある軍事評論家は、この一連の進展を、41年のパールハーバー事件後の半年間に、空母の増強とともに、戦いに勝つために空母をいかに機動的に使うかのタスクフォース部隊を緊急に編成して、日本に立ち向かっていった当時と重ね合わせている。ハードや、インフラ整備は重要だが、絶対必要条件は「利用技術の開拓にある」といっているのだ。「インターネットは鉄砲の弾と同じ威力をもっているんですよ」と。(旅の蜃気楼 本郷発・BCN主幹奥田喜久男)
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