旅の蜃気楼

山が恋しい

2002/07/08 15:38

週刊BCN 2002年07月08日vol.948掲載

 

▼街にいると山が恋しい。山にいると街が恋しい。人間は我がままにできているんですね。パソコンに向かって原稿を書いている今の心境は、山に行きたい気分が心の中に充満している。仲間が、今、山に入っていると思うだけで、もうそわそわしてくるんです。こんなときは、もう病気状態ですね。コーヒーを飲むために席を立ってみたり、トイレに立ってみたり、落ち着きのない立ち振る舞いになる。当年とって53才。健康のために山に登り始めて15年。自分勝手に「ウィークリークライミング」と称して、毎週山に登り始めて11年。生活のなかに占める山の存在は大きい。そうはいっても、山のプロではないから、一生懸命パソコンに向かって原稿を書いている。年数を勘定してみると、もう31年にもなる。

▼乃南アサさんの原稿を隣に見て、「直木賞をとりたいな」と、うらやましく思いながら原稿を書いている。名のある登山家にもなれず、作家としても認められず、いじけた人生だな…。ああ、いやだいやだ。こうして、いじけた原稿を書いていると、なんだか、本当にいじけてくる。そこで週末には、こうした気分を吹っ飛ばすために、山に登っている。朝の出発が早い時は、起きるのが辛い。夏はまだ夜明けが早いからいいんだけれど、冬の5時起きになると、いやはや自己との対決気分である。「起きる、起きよ、眠い」の葛藤だ。それでもガバッと起きて、山の衣装に着替えて、ザックをしょって電車に飛び乗る。ゴトゴト、揺られながら、山が見えてくると、もう、気分は、るんるん。「IT業界に明日はあるか?」とか「インターネット・バブルの崩壊後は?」とかいう問題は、もうピーカンに気をとられて、どこかへ吹き飛んで、もううわの空。月曜日まで、頭は休業状態だ。山の良き仲間は、ばりばりのプロから75歳の中高年登山者まで数多い。もちろん、IT業界の中には、良き仲間ばかりだ。いろいろな人を、綴ってみたい。 (本郷発・笠間 直)
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