ITテッなライフ

<ITッテなライフ>4.拉致に思うこと

2002/10/28 15:26

週刊BCN 2002年10月28日vol.963掲載

 北朝鮮に拉致された人が帰国した。故郷に戻るのは24年ぶりという。ご本人をはじめ、ご家族、親戚の人たちは、この日が来ることをずっと待ち望んでいたことであろう。拉致。本人の意思には関係なく、無理やりどこかに連れていくことである。ある日突然、それまで生きてきた環境とは全く異質なところに身を預けなければならない恐怖や、それまで一緒に生きてきた人たちが首をうなだれたまま味わってきた失望感は、言葉では言い表せぬ。

 10年近く前、広告代理店に勤めていたわたしの机と98noteも「拉致」された。ある日突然、机とパソコンがどこかへ消え失せてしまったのである。

 朝、出向先の百貨店の宣伝課にデザイナーのHさんから「机がなくなってるよ」と電話がかかり、急いで現場に行ってみると、机の中身がご丁寧に積まれているではないか。レポート用紙、雑誌や仕事のファイルなどの山に、生命保険会社のおばちゃんからもらったアメ玉がちょこんと2つ載っているのが、もの哀しい。何だこりゃ。ただただア然として立ち尽くしてしまった。

 これはどういうことなのでしょうか? 上司に詰めよると「今すぐ調べる」といった。が、結局実行犯はわからずじまい。ただ、当時わたしが出向していたので、複数の机は必要ないのではないか、と会議で話していた取締役がいたらしい、という説明のみ受けた。

 その後、真実は藪の中のまま、別の机がやってくることになる。98noteの方はお歳暮を送るリストを急いで作らなくてはならなかったと、社内の人が借りていったことが発覚した。

 それから数年後、わたしは会社をやめることを決めるのである。

 このところ毎日のように北朝鮮から帰国した人たちのことが新聞に掲載され、読むたびに心情を思いのまま吐露できない現状を感じる。そして品性の欠けた仕打ちは、永遠に笑い話になぞならない、とつくづく思う。
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