Letters from the World

IT技術への依存

2003/09/08 15:37

週刊BCN 2003年09月08日vol.1005掲載

 先日の大停電時には、マンハッタン内の高層ビルの中に閉じ込められた。たまたま打ち合わせに出掛けた相手先のオフィスでこの未曾有のトラブルに遭遇したのである。一切の電力を失ったビル内は暗く、身動きもならず、情報が一切ないまま。ガラス張りのビルは深夜になっても蒸し暑く、このときばかりはセントラルパークに寝転ぶ人達を羨ましく思った。

 電気がないことが、ここまで広範囲に生活を脅かすものかと改めて実感させられるとともに、基地局が稼働しない状況下では、携帯電話もWiFiも一切役に立たないことを教えられた。また、停電直前にはいくつかのウイルスに関しての注意が促されていた関係で、多くのIT関係者が電力システムへの攻撃を想像したという。

 当局は2年前のテロの再発を危惧していたようで、原因不明の事故発生直後からこの事故がテロによるものではないという声明を出し続けていた。当日は幸い雨が降らず、熱帯夜でもなかったおかげで負傷者や病人は少なかったという。略奪や強盗なども例外的に少なかったらしいが、ただ夏期ということで多くの食品が傷み、復旧後に食中毒被害が多く出たことと、食材が台無しになったレストラン数軒が電力会社を相手に訴訟を起こしたことなどが、後日談として伝わってきた。「フェール・セーフ」や、「バック・アップ」という言葉は、ITベンダーのセールストークでしかなかったのであろう。

 今回の停電時には、事態への対処どころか、ただただ復旧を待つのみで、有効な対抗手段は何もなかったのが現実だ。近年、その利便性に引っ張られてIT技術への依存度は日々増大する一方である。しかしその利用度とは裏腹に、万が一の時の具体的な対応策は、相変わらずないがしろにされたままだ。このような状況を放置しておけば、いつか必ずもっと大きなしっぺ返しがやって来ることは間違いない。(ニューヨーク発:フリージャーナリスト 田中秀憲)
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