Letters from the World

量子暗号化技術

2003/12/01 15:37

週刊BCN 2003年12月01日vol.1017掲載

 数十年前にその理論が提案されて以来、夢の暗号化技術として注目を集めて来た量子暗号化理論による初の商用製品が、米マジック社より「ナバホ」として10万ドル以下の価格帯で発表された。第2次世界大戦時に米政府が先住民ナバホ族の言語を応用して通信の暗号化に成功した事例がこの商品名の由来となっている。インターネットを飛び交う情報の守秘性や一意性などを担保するために現在運用されている暗号化技術の安全性は、膨大な計算量によってしかその暗号鍵を解くことができないという考え方から成り立っている。

 しかし、これは数学的に真であることがまだ証明されていない。そのために、既存の暗号化システムの安全性が新定理の発見により一夜にして瓦解してしまうという危惧がある。また、どのような暗号でもその基数となる値が盗まれれば、たやすく復号化されてしまうという危険もある。この問題を根本から解決する手段として登場したのが量子暗号化技術だ。その手順は、通信内容を盗聴される可能性が物理的に全く存在しない環境を通じて、元情報の暗号処理に必要な鍵のみを交換する。

 もちろん、交換する情報の全てを量子暗号化してしまうことは情報通信速度の点で現時点では現実的解にはならない。しかし既存の手順で暗号化した情報の本体を既存の通信環境で交換し、その情報の暗号化と復号化に必要な鍵だけを量子暗号化して量子暗号化情報専用の環境で別途交換することで、情報交換における完全な秘匿性を実現している。通信情報の暗号化に関する既存のパラダイムを完全に覆す量子暗号化技術は、究極の情報通信環境を提供するだろう。もっとも、その一方で、当局からの犯罪捜査が全くおよばない情報交換の場の出現を許すことにもなる。量子暗号化技術の製品化によって、社会基盤としての暗号通信のあり方に関する議論が今後沸騰することになるかもしれない。(米サンノゼ発:CHIBA SHOTEN 弘中伸夫)
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