レストランで食事をするとき、泡、白、赤といった、ワインは好みのものを選ぶ人が増えたようだが、デザートワインまで楽しむ人はまだ少ないのでは?

 デザートワインは、食後に飲む甘口のワインだが、ただ甘いだけではない。極上のデザートワインには、糖分を支えるキリリとした酸と、蜂蜜のようなとろりとした口あたりがある。

 私がオーストリアワインを愛してやまないのは、スティルワインのおいしさもさることながら、すばらしいデザートワインの宝庫だから。

 クリスマスになると、ホテルザッハ謹製のザッハトルテを送ってくださる人がいるのだが、その濃厚なチョコレートの風味にデザートワインを合わせると、生まれてきたことを感謝したくなるほど幸せな気持ちになる。スティルワインなら多少マズかろうがさほど気にせずいただくが、デザートワインは高級なものしか飲みたくない、と断言してしまおう。

 代表的なデザートワインに貴腐ワインがある。葡萄に貴腐菌がつくことで、果皮が薄くなり水分の蒸発を促すため、糖分と酸の濃度が高まって果汁が凝縮すると同時に、なんともいえぬ上品な香り、貴腐香が出る。

 貴腐菌はカビの一種で、ボトリティス・シネレアというのが正式な名だが、これには良い菌と悪い菌がある。貴腐葡萄は良い菌で「高貴な腐敗」、英語ではnoble rotと呼ばれる。悪い方の菌は、灰カビ病などの原因となる。外観はほとんど同じなので、見分けるのはプロの栽培家でも至難の業だそう。

 よい貴腐が発生するには特別な条件がいる。まず葡萄はキズのない完全なもので、それに朝もやによる湿気で発生したカビがつく。しかし日中いっぱいモヤっていてはダメ。日中の強い日照りが適度なところで、そのカビの進行をストップさせる必要がある。オーストリアでは、ハンガリーとの国境近くのノイジドラー湖がその条件を満たすため、周辺によい貴腐ワインの産地が多い。アルザス、ドイツ、フランスのソーテルヌなども貴腐ワインの産地として有名。

 貴腐菌は気まぐれで、年によりつく年とつかない年があり、毎年作れるわけではない。作柄が良さそうだとなっても、いつ雪に見舞われ、一年の努力が水の泡になるやもしれぬリスクを抱えて葡萄と向き合う。だから貴腐ワインを造れるのは、ある程度余裕のある、つまりこれまで実績のあるワイナリーということになる。

 そうしたワイナリーが、儲け度外視で作る最高級品がデザートワイン。値段が高いのも当然かもしれない。