Letters from the World

ITに遊び心と生産性を

2004/08/02 15:37

週刊BCN 2004年08月02日vol.1050掲載

 米国のIT業界を取材していると、米国人の「生産性(produc tivity)信仰」に直面することが多い。例えば、米国の携帯市場がなかなか成熟しないのもこの信仰のせいだ。米国では着メロや待ち受け画面に凝る人になかなか出会わない。ましてや「着うた」なんてありえない。携帯ゲームに興じたり、メールのやり取りに明け暮れる若者の姿もない。個性的なストラップなどのアクセサリーも使わない。

 なぜかと言えば、米国人にとって、携帯電話はコンピュータやPDA(携帯情報端末)と同じ「仕事の道具」だからだ。仕事の生産性を上げるためにある機械だから「ゲーム」や「着メロ」といった遊びを認めない。このコダワリは携帯だけじゃない。最近流行っているソーシャルネットワークツールも同様の事例だろう。例えば、グーグルの社員が始めたOrkut(http://www.orkut.com/)は、メールや個人ホームページを組み合わせて「人の輪を広げる」ことが狙いだ。もちろん、恋人や仕事探し、同好会の結成など、参加する人の目的は多種多様だ。

 しかし、アクセスしていても、自分の細かい情報を入力したり、頻繁にメールで呼びかけるなど、まるで仕事をしているような作業をくり返すばかり。遊び心がないので、すぐに飽きてしまう。もっとひどい例が、このソーシャルネットワークを展示会や国際会議の参加者向けに利用する場合だ。これは展示会や会議に参加して、会食やパーティなどを通じて色々な業界情報を取り交わす楽しみをだいなしにしてしまう。米国の家庭にブロードバンドがなかなか普及しないのも、ひょっとしたら、この不幸な信仰のせいかもしれない。同僚との飲み会なども少なく、ひたすら仕事をする米国人。生産性より「飲み会」を重視する日本人。インターネットやパソコンといった技術やツールは同じでも、日米におけるITサービス市場の違いは、ますます拡大している。(米サンフランシスコ発:ITジャーナリスト 小池良次)
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