Letters from the World

米で起業する

2004/08/30 15:37

週刊BCN 2004年08月30日vol.1053掲載

 私事で恐縮だが、この度米国で起業することになった。各方面になにかと制約が多く、面倒な書類作成に振り回されることの多い日本での会社設立に比べ、米国ではその手続きが非常に容易なことに加え、特にスモールビジネスに関しては、様々なサポートが用意されているのは日本でも良く知られていると思う。筆者自身のこれまでにの仕事を通じて得た知識もそれなりにあり、自身の起業も当初は安易に考えていた。ところが実際にことを起こしてみると、思わぬ厄介事が次々と出て来て驚くばかりであった。

 百聞は一見にしかず。正直これほどまでに面食らった経験は随分と久しぶりである。連邦政府のウェブサイトに記載されている企業法の項を丹念に読み、必要な書類をダウンロードし、設立手順も十分に理解し準備万端、事にあたったつもりだ。しかしうわべの知識のなんと役に立たないことか。そして同時にこれまでの自身の仕事に関しても、改めて我が身を振り返させられることとなった。もちろんこれまでも、自身の業務に対していい加減であったつもりはない。文書に記したものや口頭で述べたことを問わず、その内容には十分留意し、可能な限り事実を伝えるよう努力してきたつもりだ。

 しかし、それが必ずしも真実を伝えているわけではないのだと言うことも十分にあり得る訳で、当たり前にも思えるこのことを、今回の一連の経験で改めて教えられた思いである。これまでは米国での起業とは、平坦で、短く、しかも真っ直ぐな道なのだと思っていた。しかし実際にはあちこちに石ころが沢山転がっており、窪みや水溜まりがあり、一部には画鋲がばらまかれていたようにも思う。「平坦で短く真っ直ぐ」も嘘ではないが、真実を伝えていた訳でもなかったのだ。今回の経験を今後の業務に関しての自らへの戒めとしたいと思う。(米ニューヨーク発:ジャーナリスト 田中秀憲)
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