旅の蜃気楼

21世紀の“嘆きの壁”

2006/05/22 15:38

週刊BCN 2006年05月22日vol.1138掲載

【NY発】マンハッタンの道路は碁盤の目状に走っている。とてもわかりやすい。京都みたいだ。御所に相当するのが、街の真ん中にあるセントラルパークだ。とても広い。雨上がりの樹木や芝生があまりにみずみずしくて、池あり、坂あり、岩ありと、あちらこちらをぐるぐる廻るうちに、一日がかりの公園散策となった。疲れました。歩きながら見る公園の外側の景色も素敵だ。個性的な形をした古いビルが立ち並び、屋根が織り成すスカイラインの風情は格別だ。公園の南西角には98年の歴史を誇る「ザ・プラザ・ホテル」がある。昨年から改装中で年内には超高級コンドミニアムに生まれ変わる。「一部屋、いかがですか」。ここから望むと、どの景色を切り取っても絵になりますよ。

▼公園の西側に沿って南北に走る道がある。高級品店の並ぶ五番街だ。歩きながら、ショーウインドウを冷やかす。店の中を窺うが、客の姿はあまり見かけない。売り上げはどうか。大きなお世話だ。五番街は真っ直ぐ南に伸びている。行き着いたところに世界貿易センター(WTC)があった。2001年9月11日を境に景色が一変した。WTCが2棟とも崩落して地中に大きな穴ができた。それを「グランドゼロ」という。あの出来事から4年8か月が経過した。マンハッタンには世界中の人が集まってくる。ブロードウェイでミュージカルを見たい、自由の女神を一度みたい、NYは世界の憧れの街だ、と思ってやってくる。ところが、9.11から人は「グランドゼロ」を見るために集まってくる。修学旅行のような光景も見た。全米から子供たちもやってくる。それは広島の平和記念資料館のようだ。

▼「グランドゼロ」には「フリーダム・タワー」が建つ。4月27日に着工した。高さは541メートルで全米一。WTCより100メートルほど高い。なんとも怯まない姿勢だ。ビルは2011年に完成する予定。そこは再び、あこがれの街が再現されるのだろうか。今はまだ「グランドゼロ」に大きな穴が開いている。街は21世紀版“嘆きの壁”といった観光地と化している。以前のような“憧れ”ではないが、人を引きつけずにはおかない地、と感じた。(BCN社長・奥田喜久男)
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