旅の蜃気楼

こころふれあう秋の下町

2007/09/17 15:38

週刊BCN 2007年09月17日vol.1203掲載

【根津発】夏休みが終わり、ラジオ体操の子供たちの姿が見えなくなった。期間中、体操は6時半に始まる。子供たちは三々五々、根津神社の境内に集まってくる。多くの子は、眠そうな目をこすりながら、ふらふら歩いてやってくる。ラジオのスイッチが入る。その頃には、結構広い境内も、70歳前後のレギュラーメンバーと、10歳台の孫世代で一杯になる。常連の年長さんたちは、そんな子供たちと一緒に体操するのが誇らしげで、いい顔だ。

▼境内には欅がすっくと立っている。緑の葉が傘を広げたように、青い空に背伸びしている。秋の気配だ。この頃になると、境内はレギュラーメンバーで落ち着いた雰囲気になる。早起きは三文の徳。そう自分に言い聞かせて、5時半に起きるように心がけて久しい。夏は慣れてきたが、冬の朝は「なんで、こんな暗いうちに起きなきゃならないの」と自問する未練がましい自分がいる。

▼目を覚ますと、その日の体調がわかる。朝は45分間、根津、谷中の社寺を散歩することを日課としている。ある日、ふと、思った。「すれ違う人すべてに、声をかけよう」と。それまで、むすっとした顔ですれ違っていた人に声をかけるわけだ。ためらいの日々を過ごして、ある朝から始めた。「おはようございます」。突然の挨拶にたじろぐ人、戸惑う人、いぶかる人、さまざまだ。朝のすれ違いは常連さんが多い。今はどちらからともなく、声をかけあっている。雨が降ってきた。谷中・崇善寺のお庫裏さんが傘を手渡してくれた。ありがたい。弟をつれたお姉ちゃんも小さな声だけど、「おはよう」。

▼今、手元に一枚のパンフレットがある。『あふれるメディア!あなたの子どもは大丈夫?』。東京都の青少年課が発行したものだ。根津のふれあい館で手にした。「あいさつ・声かけで子どもを守ろう」という取り組みだ。「おはようございます」と声をかけ合うと、その瞬間に、意思の疎通が図れる。それが続くと、親しく話をしたような気分になる。お彼岸が近くなった境内は、今朝もレギュラーメンバーで賑わった。子供たちと会える夏は、来年もまたやってくる。(BCN社長・奥田喜久男)
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