北斗七星

北斗七星 2009年3月2日付 Vol.1274

2009/03/02 15:38

週刊BCN 2009年03月02日vol.1274掲載

▼遺体に洗髪・化粧を施し、遺族の申し出があれば風呂で亡骸を清めて棺へ収めるスタッフが「納棺師」。職種に「師」が付くので「専門職」に類する。親族・知人の葬儀で何度もこうした場面を目にしてきたが、この死に化粧を施す人は葬儀社の社員だと思っていた。

▼今年の米アカデミー賞で、滝田洋二郎監督の映画「おくりびと」が、日本映画では初めて外国語映画賞を受賞した。英題は「Departures(旅立ち)」。青木新門さんの著作「納棺夫日記」を読んだ本木雅弘さんが感銘を受け、監督に要請して実現したこの映画で、「納棺師」を知った人は少なくないだろう。

▼仏教の世界では、亡くなった時から死出の旅が始まり、四十九日が過ぎてあの世(幽界)に往くまで遺体に魂が宿るとされている。キリスト教では亡くなってすぐに神の元に召され、遺体に魂は残らない。二つの宗教に共通するのは、納棺に際し化粧を施すことくらいか。文化の違いを乗り越え、「日本の美しい様式」が評価されたことに米映画界の懐の深さを感じる。

▼映画の舞台は山形県酒田市。同じ県に住む知人が亡くなり、葬儀に参列したことがある。ここでは葬儀社の仕切りではなく、寺の檀家が集まって切り盛りしていた。老人ホームで働いていた私の母が、家族に見捨てられて「孤独死」する老人が増え、無縁墓地に葬られるのを嘆いていた。山形の田舎に残る風習があれば、皆で葬儀供養する功徳により、閻魔大王の審判を無事に乗り越えられるはずだ。
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