旅の蜃気楼

ラオックスに“中国の扉”が開いた

2009/06/29 15:38

週刊BCN 2009年06月29日vol.1290掲載

【本郷発】ラオックスの創業者、谷口正治氏のお通夜は、今年4月9日に文京区の護国寺桂昌殿で執り行われた。95歳の長寿であった。秋葉原で商売を起こしたのは戦後のこと。その時の年齢は32歳。ここから、骨になるまでの63年間は激動の人生だった、と今でこそ言える。ラオックスといえば、1970年代から80年代にかけては「オーディオのラオックス」。90年代は何といっても「ラオックス ザ・コンピュータ館」だ。通称“ザ・コン”のオープンには谷口さんが挨拶をした。時に77歳の喜寿である。ところが、21世紀になって、雲行きが怪しくなった。2005年6月には倒産の噂さえ流れた。

▼家電の大型量販店商戦は、かつての雄・ラオックス抜きの戦いを繰り広げていた。07年に、広報部長だった山下巌さんが社長に就任。その年の9月30日に“ザ・コン”を閉鎖。その時、創業者は84歳、心中を察するに余りある。社長の山下さんとは時々、お会いをする。BCN AWARDの式典には毎年参加してもらい、「モノづくりの好きな大人とジュニア」の方々にエールを送っていただいている。企業業績はどん底にもかかわらず、にこやかに、『栄光のトロフィー』を授与していただく姿に感動を覚える。意志の強い紳士だ。

▼08年の9月から世界が激動期に入った。週刊BCNで毎号掲載している「BCN STOCK CHART」によると、デジタルIT業界330社の時価総額は08年の6月がピークで100兆円弱。最低が同年11月と今年3月で50兆円台。その後持ち直して最新号では63兆円3826億円(6月15日現在)だ。こうした激動期にあって、ラオックスはまったく蚊帳の外の状態であった。ところが、6月18日の株価は66円に急騰。前日比およそ2倍だ。19日は株価80円。時価総額はおよそ50億円となった。その株価の急上昇には理由がある。中国の蘇寧電器集団の資本が入ったのだ。南京市に本社がある中国2番目の大型量販店だ。ラオックスは日本製品の中国市場への入り口となり、中国製品の出口となる。仕入れのノウハウと消費者の心を知っているラオックスは、中国市場を手に入れたことになる。

▼通夜には、遅い時間に出かけた。長い行列の最後尾についた。前方から、山下さんが歩いてこられた。お互いに深く頭を下げた。20世紀までのラオックスならば、社葬になっていたはずだ。年配の弔問客ならば、一様にそう思ったに違いない。創業者の力を改めて感じた。(BCN社長・奥田喜久男)
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