北斗七星

北斗七星 2009年8月24日付 Vol.1297

2009/08/24 15:38

週刊BCN 2009年08月24日vol.1297掲載

▼1992年の夏、茨城県結城市の田畑の真ん中に、目が虚ろな人たちが集まる怪しげな施設ができた。薬物依存者のケアを専門に行う民間リハビリ施設「茨城ダルク」だ。小学校のすぐそばで、時には畑の陰でシンナーを吸う少年を見かけることもしばしば。当然、住民の反対運動は過熱した。今は地元住民も存在意義を認める同施設は「全国ダルク」として4番目に開設された。ダルクはいまや50か所以上に拡大し、同施設からは多くの“指導者”を輩出している。

▼当時、「茨城ダルク」の入所者に幾度となく取材した。「薬から逃れるのは、一生無理かもしれない」と、誰もが口を揃える。だが、同じ境遇にある者同士で立ち直るきっかけを探す姿に懸命さを感じた。それまで、薬物依存者のケアは隔離病棟での“荒療治”が普通だった。ダルクは「今日一日だけ薬を止めよう」を合言葉に、規則正しい共同生活で緩やかに回復を目指す方法で、薬物汚染の拡大を抑える役目を担っている。

▼芸能界の薬物汚染が問題になっている。歌手の酒井法子容疑者が幼少期の家庭不和で、精神的な弱さから薬に手を出したとの報道も見かける。だが、むしろダルク入所者は平穏に暮らしてきた人ばかりだ。ちょっとした不安にかられて、薬物をやっている人を真似る例がほとんどという。一人の若い入所者の言葉を思い出す。「薬物依存症から逃れるのは一生の旅です」。彼らの境遇を知っていれば、酒井容疑者の悲劇は起きなかっただろうに。

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