旅の蜃気楼

山旅のご褒美は見事な絶景

2009/10/29 15:38

週刊BCN 2009年10月26日vol.1306掲載

【奥穂高発】10月3連休の山行のつづき。先週号では、新穂高温泉を基点にして、双六岳の鞍部にある双六小屋に至るまでの道程を記した。

▼双六小屋は食事が美味しいので有名だ。カボチャ、ナス、そして大好物のちくわの磯辺揚げ。野菜の天ぷらにはウスターソースをたっぷりかけて食べた。うまい。山小屋泊りの経験はまだ浅い。しかし、山小屋というくくりを外しても、大満足の味だ。ぜひ、お出かけください。

▼夜は冷え込んだ。外の水は凍ってしまうので、自分の水筒の水が頼りとなる。朝はさらに冷え込んだ。身体がまだ気温の変化に慣れていないから、ことさら寒さを感じる。窓越しに外を見ると、様子が変だ。窓ガラスの全部が凍って、すりガラスになっている。これでは見えないはずだ。小屋から外に出た。山は真っ白だ。見るものすべてが雪で覆われている。初めて見る山々だ。地図を広げて確認する。左手前方が鷲羽岳(わしばだけ)。鷲が雄々しく羽を広げて、悠々と飛んでいる姿に見えてくる。今日は、白い鷲だ。滅多に見られない雄々しい姿だ。

▼小屋を出発して、槍ヶ岳に向かう。5時間30分余りの登りのコースが始まった。坂を登り詰めると、雪化粧をした槍ヶ岳が真正面にどしんと姿を現した。凄い光景だ。前方に北アルプスの南部、後方に雲の平の中部、そのはるか先に立山連峰を一望する。空の青、雪の白、七竃(ななかまど)の赤。空気は凛としている。写真に撮っておきたくなる光景である。実際、山の写真集で見るワンカットだ。それが現実の目の前にある。なんと幸せなことだろう。

▼今年は雨続きの山の旅を嘆いていた。変わりやすい天候に合わせてカッパをさっと着て、さっと脱ぐ技が身についたのが取り柄だと、山旅を決めつけていた。とんでもない。こんな非日常と出会えるなんて、新穂高温泉の閑散としたバス停留所に降り立った時には想像もしていなかった。真っ白な槍ヶ岳に向かって歩き始めた。【つづく】(BCN社長・奥田喜久男)

純白の雪をかぶった木の枝が青い空に映える
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