旅の蜃気楼

初釜に事寄せてIT業界を見渡す

2010/01/07 15:38

週刊BCN 2010年01月04日vol.1315掲載

【本郷発】親しい仲間から初釜に招かれた。抹茶と和菓子は好きだから、嬉しいのだが、正客を仰せつかったので緊張気味だ。行儀作法は当たり前にこなして、お茶碗や掛け軸のウンチクを少し語らい、世間話をしながら、お茶会で出会った人たちとその時を楽しみたい、といつも思う。だが、にわか正客ではその役は重過ぎる。だからといって、逃げてばかりではいつまでたっても身につかないので、「えいやぁ」とばかりにお受けすることにした。

▼新年最初に開く茶会を初釜という。お茶の教室をもっている人は、その年に初めて釜の蓋を開ける日という意味で「茶会」として行い、師匠は今年も釜の蓋が開けられることに感謝し、社中(生徒)の皆さんは、新しい年の稽古に対して目標を立てたり、ほかのメンバーとの顔合わせをして、楽しむという趣向だ。「おもてなし」の心はとても大切だ。「おもてなし」は、もてなす側だけに求められるものではない。もてなされる側にも同様の気遣いがあって、気持ちが通い合うものだ。

▼新春は多くのことが“初”の字で始まり、気分を新たにするスタートラインだ。2008年9月のリーマン・ショック以降、1年我慢すれば何とかなるだろうと踏ん張ってきた。ところが、2年目に入った今も、先行きの見通しは不透明だ。IT業界にはBtoBとBtoC市場がある。前者の大手SIer企業は前年比で売り上げ9.3%減だ。2次、3次の企業になると、1次企業からの発注量はさらに絞られて、最大でその倍の減少と予測できる。後者の前年比は商品によってまだら模様だが、販売台数の前年比は伸びているものの、ポイント還元と値下げ攻勢でメーカーの収益は前年比減と判断してよい。メーカーの体力が弱ると開発部門にしわ寄せがくる。開発部門の縮小は、将来的にはスーパーコンピュータの開発を縮小することと同様の結果を招く。お客をおもてなしする販売店、販売店をおもてなしするメーカー。「おもてなし」は双方の気遣いがあって成立する。三方が得をする視野をもって初仕事に臨みたい。(BCN社長・奥田喜久男)

仕事でも、日常の生活でも「おもてなし」の心はとても大切だ
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