BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>われ日本海の橋とならん

2012/01/19 19:47

週刊BCN 2012年01月16日vol.1415掲載

 時代がかったタイトルの本の奥付には、1984年生まれの若い著者が紹介されていて、そのギャップに軽い戸惑いを覚える。新渡戸稲造がアメリカに留学する際に語った言葉、「願わくは、われ太平洋の橋とならん」からとったものだとか。

 書かれている内容は、けっして古めかしいものではない。まさに今の中国の姿が赤裸々に描かれている。日本の高校を卒業して、北京大学に留学した著者は、2005年4月に起きた反日デモの現場に居合わせた。その後しばらくして、友人の韓国人留学生から「香港のテレビ局が学生のコメントを求めている」と知らされ、放送に出演したことから彼の生活は一変することとなった。年間300本以上の取材を受け、200本以上のコラムを執筆し、100回以上の講演をこなす“中国で一番有名な日本人”になったのだ。

 本書の核をなすのは、中国の人たち(とくに若年層)が日本をどうみているかについてだが、興味深いのは、著者が「暇人」と呼ぶ層の存在である。「暇人」は都市部に古くからの持ち家があり、働きもせず、公園で将棋を指したりして、日がなぶらぶらしている人たちなのだ。彼らは金持ちではないが、「時間持ち」である。体制内に組み込まれないので、権力側にとっては統制のとれないやっかいな存在でもある。そうした「暇人」が3億人もいるというから驚く。彼らの声なき声が権力者にプレッシャーを与えているのである。中国という国の複雑さ、懐の深さをみる思いがする。(仁多)


『われ日本海の橋とならん 内から見た中国、外から見た日本──そして世界』
加藤嘉一 著 ダイヤモンド社 刊(1500円+税)
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