BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『「ガード下」の誕生──鉄道と都市の近代史』

2012/04/26 15:27

週刊BCN 2012年04月23日vol.1429掲載

 ガード下にするか横丁にするかで散々迷った末、ガード下にした──。この一文から想起される「ガード下」のイメージは、頭上を走る電車の音と振動、そして赤提灯の喧噪だろう。本書は、そんなガード下の成り立ちから法的位置づけ、使われ方、そして実際のガード下の商店街を中心に紹介しながら、その楽しみ方を指南する一冊。

 そもそも鉄道が高架を走るようになったのは、明治から大正にかけて鉄道網が整備される際に、蒸気機関車が住宅地を走るときの煙の影響や、危険で交通渋滞の原因にもなる踏切をなくすためだったという。この高架の下を利用しはじめたのが、東京・有楽町駅付近のガード下。飲食街の裏側には、今も明治43年築造のレンガ造りがある。ここを含めて新橋駅から上野駅までの区間には、アメヤ横丁をはじめとする古くからのガード下商店街が、かたちを変えながら残っている。

 都市のガード下にあるのは、飲食・物販店舗だけではない。住宅や保育園、果てはホテル、神社、アートスペースまで、実にさまざま。雑駁で生命力に満ちた空間の魅力が伝わってくる好著だ。

 ガード下か横丁か。「それでも横丁がいい」という天邪鬼には、桑原才助『吉祥寺 横丁の逆襲』(言視舎)がおすすめ。東京・吉祥寺のハモニカ横丁を起点に、吉祥寺の横丁の変遷と今を追っている。

 ガード下と横丁、どちらも街を歩くとき、お供に連れて行ってほしい。ただし後者は吉祥寺限定です。(叢虎)


『「ガード下」の誕生──鉄道と都市の近代史』
小林一郎 著 祥伝社 刊(819円+税)
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