BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『100の思考実験 あなたはどこまで考えられるか』

2012/05/24 15:27

週刊BCN 2012年05月21日vol.1432掲載

 ほかの要素をすべて同じにして、ある特定の要素だけを違えるとどんな結果が生じるのか──もともとは科学実験で用いるこの手法を頭のなかだけで行うのが「思考実験」だ。たとえ話を用いて、核心となる一つの概念や問題に焦点を当て、論点を明確にして思考を深める。NHKの人気番組『ハーバード白熱教室』で、マイケル・サンデル教授が用いているあの手法である。本書は、そんなたとえ話とその解説を100本収めた思考のトレーニングブックだ。

 例えば……ベジタリアンであるあなたの目の前にいるブタが、「わたしを食べてほしい」としゃべる。あなたはその肉を前にして「食べないのは失礼だ」と感じる。あなたは食べることができるのか──。

 100のたとえ話の一本一本はごく短く、10分もあれば読めてしまう。しかしその中身は、訳者いわく「哲学的思考実験の見本帳」。古代ギリシャの哲学者が提示したパラドックスから、生命倫理や環境問題など、われわれが日常接することの多いことがらまで、さまざまなテーマを取り上げている。ここを起点に考えを深めるのが目的だから、解説では答えは明示していない。それでも、「アキレスと亀」「無人の森で木が倒れる音」「トロッコ問題」など、哲学的命題としてはポピュラーな話もあって、楽しく読むことができる。

 たとえ話のなかには、古今の書物から採ったものも多い。例えば先ほどのブタの話は、ダグラス・アダムス『宇宙の果てのレストラン』。その原典にあたるのも、また楽しい作業になりそうだ。(叢虎)


『100の思考実験 あなたはどこまで考えられるか』
ジュリアン・バジーニ 著 向井和美 訳 紀伊國屋書店 刊(1800円+税)
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