BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『トヨタがF1から学んだこれだけのこと』

2012/07/05 15:27

週刊BCN 2012年07月02日vol.1438掲載

 2009年11月4日、トヨタ自動車は、8年間続けてきたフォーミュラ・ワン・レース(F1)からの撤退を発表した。08年3月期の1兆7000億円の黒字から、09年3月期には4369億円という未曾有の赤字に転落。その額だけでなく、赤字そのものが59年ぶりという事実は、年間数百億円を要するF1活動からの撤退を決断させるのに十分なインパクトがあった。

 著者はモータースポーツジャーナリスト。とくにF1を中心に取材活動を行ってきただけに、その識見は幅広く、深い。本書はトヨタのF1活動をドラマとして追いかけるのではなく、トヨタがこの8年で得たもの、失ったものを検証することに徹した著者にとっては異色の作品だ。トヨタのマネジメントを論じた「トヨタ本」の著者たちならもっと直截なもの言いをするであろう箇所でも、抑制の利いた表現で冷静に分析してみせる。トヨタ自工・自販時代に遡ってモータースポーツへのトラウマを論じた項などは、その白眉だ。

 トヨタはF1参戦にあたって、常識的な参戦方法であるエンジンの供給だけでなく、車体設計からエンジン開発、チームのマネジメントまでを行う体制で臨んだ。それはメーカーとして、得られるものを最大化する作戦だった。

 ドイツ・ケルンのトヨタ・モータースポーツ(TMG)を中心に活動してきたパナソニック・トヨタ・レーシング。本当にあと1年続けていたら、表彰台の中央に上がっていたのに、と思う。行間からにじみ出る無念の思いが、本書の一番の美点かも知れない。(叢虎)


『トヨタが F1から学んだこれだけのこと』
赤井邦彦 著 日本経済新聞出版社 刊(1600円+税)
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