視点

トヨタ自動車とITが生み出す市場創造力

2011/06/23 16:41

週刊BCN 2011年06月20日vol.1387掲載

 トヨタ自動車が世界的なITベンダーと提携し、クラウドコンピューティングやSNSを使った「新サービス」を生み出そうとしている。技術革新が進むとともに、自動車とITのつながりは、従来の制御システム開発やCADを利用したきょう体設計などの範疇を超えてきた。自動車をプラットフォーム(基盤)にして、幅広い分野で関わりが深くなる可能性を秘めている。

 「未来のモビリティ社会では、走る、曲がる、止まるというクルマの基本的な価値に、もう一つ『つながる』という価値が重要になる」。トヨタ自動車の豊田章男社長は、セールスフォース・ドットコム(SFDC)との提携会見でこう述べている。クルマと人が会話する。クルマとクルマが会話する。1987年に始まった米国テレビドラマ「ナイトライダー」のような時代が目の前にあるのだ。

 自動車産業から流れてくる組み込みソフトウェア開発案件は、ソフト開発市場を潤してきた。今度は、こうしたソフト開発にとどまらず、クルマ、モバイル端末、クラウド、SNSなどを利用した「コミュニケーション空間」の領域で、IT産業に新たな市場を生み出すことだろう。

 トヨタ自動車は、SFDCが提供する企業向けSNS「Chatter」を利用して、EV(電気自動車)とプラグインハイブリッド自動車(PHV)向けに新サービス「トヨタフレンズ」を開始。自動車の電池残量や定期点検のお知らせを手持ちのモバイル端末に向けて自動車が“つぶやき”、自動車のオーナーは販売店サイトで点検予約をする。友人同士が位置情報を車載端末で情報共有し、新感覚でドライブを楽しめる。

 マイクロソフトもテレマティクスと自動車をつなぐ処理基盤としてクラウド・サービス「Windows Azure」を提供する。これらはすでにトヨタ自動車の“想定内”の計画だ。

 企業や組織の重要な管理要素であり、経済を循環させるには「人・モノ・金」が重要とされてきた。この要素にまつわるITツールは数多くある。これからは、インターネット社会が高度に進化するなかで、第四の要素として「情報」の取り扱いが脚光を浴びてくる。「コミュニケーション空間」にある情報を含め、企業内情報という情報をどううまく活用するかが、企業活動を活性化するうえで重要になってきた。トヨタ自動車の動きは、IT産業の新たな時代の幕開けを予感させてくれる。
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