BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『あたまの地図帳』

2012/08/30 15:27

週刊BCN 2012年08月27日vol.1445掲載

 東アジアの地図を上下逆さまにすると、日本と大陸の関係がみえてくる。こう指摘したのは、歴史学者の網野善彦だった。実際に試したときはちょっとビックリしたものだが、何も逆さまにしなくても、地球儀をちょっと回してみればいつもとは違う世界がみえてくることは、皆さんよくご存じの通り。

 本書は、「地図・地理と向き合う」がテーマ。地図という武器を使って政治・社会・宗教などの世界の諸相を整理し、さらに一歩踏み込んで、整理法を発想法や思考法に転換する術を伝授する。キーワードは、「凝視」「立場」「スケール」「目印」「差異」「志向」など19の思考の原点。世界地図から市街詳細地図、果ては鉄道路線図までを駆使しながら、著者がたどった思考を追体験することができる。

 例えば「スケール」の項では、まず日本列島の大きさをアメリカの五大湖と比較。次に、アメリカ東海岸やナイル川と並べてしまう。さらに排他的経済水域をみて、「日本の『スケール』は決して小さくない」という結論を得る。この後、面積・人口に視点を移し、最終的には地図や数字からはわからないスケールをもつ国として、人口1万2000人のツバルに注目する。そして一転、思考は人間の「スケール」へ。人的ネットワークの広さ、精神的な世界の大きさ、個人単位の所有と消費を考え、最終的に市場の「スケール」の再把握にまで進む。

 地図は今、地図アプリとして、手のひらのなかにある。そこから広がる思考を楽しんでほしい。(叢虎)

『あたまの地図帳』
下東史明 著 朝日出版社 刊(1600円+税)

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