映像や音声をIPネットワーク経由で伝送する技術「AV over IP」が普及し、かつては別系統で扱われてきた音声や映像などのデータが、昨今ではIP通信のネットワーク上を流れるようになってきた。とはいえ、その音声や映像の最終的な品質には、ネットワークの通信品質に加え、機器の性能や適切な設定が大きく影響するなど、IT技術者にとって対応が難しい場面も多い。その中において、音響とネットワークの両分野で長年の実績を持つヤマハは、インテグレーターやユーザーにとってフレンドリーな製品やソリューションを提供している。ヤマハミュージックジャパン 音響事業戦略部部長の植木輝人氏と、ヤマハ プロフェッショナルソリューション事業部商品企画グループリーダーの太田光彦氏に話を聞いた。
音響分野は「匠の世界」 AVとITが融合する中で生じているニーズの変化とは
――近年ではAV over IP技術により、業務用音響機器(プロオーディオ製品)とネットワーク機器、すなわちAVとITが融合しつつある状況です。この両分野で事業を展開するヤマハはこの市場の変化をどのようにとらえていますか。
植木 プロオーディオというのは、かなりクローズドな市場です。長年にわたって実績とノウハウを積み重ねてきた専門業者が、いわば「音の匠」として劇場や多目的ホールなどの音響設備に携わり続けています。その一方、近年では官公庁や一般企業のITネットワークにも音や映像が取り込まれるようになり、例えばインテグレーターに対し、ネットワークの再構築に合わせて役員室や会議室の音響システムも提案してもらいたいという引き合いも増えてきました。
ヤマハミュージックジャパン
音響事業戦略部 部長
植木輝人
さらに、コロナ禍でコミュニケーションのあり方が一変したことで、製品を導入いただく企業のお客様の音質に対する認識が大きく変わりました。以前なら「音が出ていればいい」という認識が一般的でしたが、リモート会議が頻繁に行われるようになって、議事録ソフトでの認識精度の観点からも音の品質がいかに業務効率やストレスに影響を与えるかを多くの方が実感しました。長年の音響ノウハウを持たないIT技術者であっても、ユーザーが求める総合的なソリューションに音響が含まれ始めた現状に意識を向けざるを得なくなっています。
太田 そのニーズに応えるには、より高音質な音響システムを、より容易に扱えるソリューションとして提案することが重要です。そしてAVとITの融合領域は進化を続けており、単に接続が容易になっただけでなく、AV機器をコントロールする仕組みもIPネットワーク上で構築できるようになり、設定やチューニングのインテリジェント化も進みました。IT技術者にとっても、以前より格段に扱いやすくなってきています。
ヤマハ
プロフェッショナルソリューション事業部
グローバルマーケティング&セールス部
商品企画グループ リーダー
太田光彦
植木 全国には3,000ほどのホールや劇場があると言われていますがそれらの専門施設と比べ、官公庁や一般企業の数は膨大です。AVとITが重なり合う領域には非常に大きな市場が広がっています。サイネージや監視カメラなどがすでにITの領域に取り込まれて久しいことからも、AVとITを別個の領域として区別することには無理があります。実際に、海外、特に欧米からの調査レポートを見ると、音響を含めたより広い領域をカバーするIT企業が伸びているという情報が目立ちます。専門領域だけでなくプロオーディオなど隣接領域にもカバレッジを広げた企業の方が強く、IT企業が音響分野の企業買収に乗り出す例もかなり増えています。これはVAR(Value Added Reseller:付加価値再販業者)に限らず、そこへ卸売をするVAD(Value Added Distributor:付加価値流通業者)も同様です。幅広い製品やサービスの供給者として選ばれるため音響設計の会社を買収、パートナーシップを結び隣接領域を含むより広いソリューションの提供を図る動きがあります。
プロオーディオとネットワーク、両方の事業で長年の実績を持つヤマハの強み
――この市場に対して、ヤマハはどのような姿勢でアプローチしているのでしょうか。
植木 当社は音響とネットワークの両方を手掛ける、他に例のないメーカーです。業務用音響機器は1969年、ネットワーク機器も1995年からの実績があります。そして近年、AVとITが融合しつつある中で、プロオーディオ事業とネットワーク事業が同じ事業部門となり、組織としてもシナジー効果を生み出す体制を整えました。
――ヤマハのLANスイッチにはどのような特徴がありますか。
太田 一言で言えば、AV機器との相性が非常に良いスイッチです。AVとITの融合を前提として開発したラインナップを持ち、AV over IPに対応する当社のプロオーディオ製品とスイッチ製品の組み合わせで接続すると自動的に最適化設定が行われます。音響システムに関する知識やノウハウが乏しくても機器設定が容易なため、IT技術者にとってフレンドリーな仕様です。
スイッチそのものの設定もシンプルで、コマンド入力は不要。日本語でわかりやすいWeb GUIを操作するだけでさまざまな用途に対応できます。IT系と音響系どちらのバックグラウンドを持つ方でも、知識が不足する部分を補えるとともに、安心して使っていただけるように設計しています。
――プロオーディオ製品にはどういった特徴がありますか。
太田 当社はさまざまな製品を提供していることで知られていますが、ヤマハのDNAはやはり「音」です。根源的な価値は高品質な音響にあり、そのコアを大切にしながら、ユーザーフレンドリー・インテグレーターフレンドリーな機能を盛り込んでいます。先に説明したような容易な機器設定もその一環です。また、ネットワークを介したリモート監視・集中管理にも対応し、運用性も高めています。
――それらを組み合わせたソリューションには、どのような特徴があるのでしょうか。
太田 カスタマージャーニーを重視し、インテグレーターにとってのプロダクティビティ、ユーザーの方々にとってのユーザビリティを実現しています。
ソリューションとしての特徴で言えば、ルームプランニングソフトウェア「ProVisionaire Plan」が良い例でしょう。会議室など音響システムを導入する部屋の要件と什器のレイアウト情報を入力するだけで、わずか数分で適切なマイクやスピーカーの種類や数、配置などを自動で提案します。
ヤマハでは「ProVisionaire Plan」にて、
利用環境の情報を入力するだけで最適な音響システム構成や
配置の自動設計を提供している。
さらに最新のアップデートではクラウドサービス「ProVisionaire Cloud」と遠隔会議システム「ADECIA」を連携させることで、「自動ボイスリフト設定機能」に対応しました 。ボイスリフトとは広い会議室などで離れた位置からの発言を聞き取りやすくするため、発言者の近くにあるマイクで音声を拾い、室内のスピーカーから自然に拡声し、部屋のどこにいても均一な大きさの声を聞き取れるようにする技術です。
従来、このボイスリフトはハウリングを防ぎながら音量や音質を細かく調整する必要があり、 音響のプロが1~2日かけて手動チューニングを行う高難度の作業でした。当社の「自動ボイスリフト設定機能」 ではそのノウハウを自動化し、音響の専門知識がなくても最大90分程度でチューニングが完了します。
日本メーカーとして国内市場を重視
インテグレーターとの連携でソリューションをさらに進化させる
――インテグレーターやユーザーへの支援体制をお教えください。
植木 音響事業戦略部の業務として情報発信を行うほか、パートナーと共にヤマハ施設でのデモを体験できる機会を提供しています。また、専門部署がインテグレーターと共にお客様への提案サポートを行っています。最近はインテグレーターの企業上層部から営業、技術社員へ研修やセミナーのご要望も増えています。お客様の導入予定現場で体験いただく検証機材の充実もヤマハの強みの1つだと思っています。自信を持ってお客様にソリューションを届けられるよう、『音の匠』であるヤマハが背後からしっかり支える体制を整えています。
当社は日本のメーカーです。音とネットワークの専門チームが近くで支えることが、国内インテグレーターやお客様にとっての安心感につながると考えています。特にトラブル時の対応については、日本メーカーとしてのプライドを持って取り組んでいます。
太田 製品の改良・改善サイクルを回していく上で、顧客との近さは大きなアドバンテージです。特に最近は設定やチューニングなどの自動化が進んでいるだけに、どのような環境でも問題が生じないように製品の改良を続けています。開発時の想定になかったような設置環境や使い方に直面することもありますが、そうした現場を確認しては、アシスト機能のアルゴリズムに反映させるなどして、より多くのお客様が安心して使えるよう製品をポリッシュアップしています。
――プロオーディオとネットワークに関して、今後の展望をお聞かせください。
太田 音とネットワークは、現代の生活や社会を支える不可欠な基盤です。AI活用が一般化するなかで、音は価値ある「情報」としてその重要性を増しています。それに伴い、高品位な音を実現するプロオーディオの役割も、かつてないほど広がっていくでしょう。プロオーディオとネットワークを融合させ、統合ソリューションとして提案できるかどうかが、製品を使用するお客様のインサイトを捉えるカギになると考えています。
植木 音響とネットワーク、この両分野の製品をどちらも自社で開発・生産・提供をしている企業はあまり例がありません。今まさに求められているこの領域にアドバンテージを持っていることに対しヤマハとして使命感を持って取り組んでいきます。