BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『日本農業への正しい絶望法』

2012/12/13 15:27

週刊BCN 2012年12月10日vol.1460掲載

 農林水産省がまだ農林省だった頃のずっと昔から、農業の衰退がいわれてきた。曰く、三ちゃん農業で後継の担い手がいない。曰く、農協が農家を食い物にしてきた。曰く、減反政策のせいで農地が荒れた……。企業の参入を促して「攻めの農業」に転換すべきという改革派と、食料の安全保障のためには補助金や輸入制限は当然とする保護派がせめぎ合っている。

 だが、著者はそのどちらも正鵠を射ていないと主張する。農業の衰退要因は、「日本にはおいしくて安全な作物を自然環境と調和しながら作る技能があった。ところがその技能がどんどん死滅している」ところにあるというのだ。「どんなに農業に打ち込んでも、周辺の農地が無計画に転用されれば、生活光などによって作物の生育障害は不可避だ。(略)技能の高い農業者ほど失望が大きい」。その一方で、「有機栽培などのもっともらしい『能書き』を準備したり、農業者の顔写真を貼ったりすれば、粗悪な農産物でも高い値段がつくというおかしな風潮がある」と嘆く。

 では、なぜ日本の農業の技能は崩壊したのか。著者は、明治維新以降の国策として工業化を推進したことが遠因とみる。もちろん、現在に至るまでの過程では監督官庁の無策や政治家の人気取り政策などが複雑にからみあっている。

 今、TPPの問題に直面して、議論がかまびすしい。私たちの生活に直接響く農業の行く末について、真剣に考えるきっかけを与えてくれる本である。(仁多)


『日本農業への正しい絶望法』
神門善久 著
新潮社 刊(740円+税)
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