BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『日本で働くのは本当に損なのか 日本型キャリア VS 欧米型キャリア』

2013/11/21 15:27

週刊BCN 2013年11月18日vol.1506掲載

日本型の長所を学ぶ

 今年6月、東京大学は「大学の国際化」を掲げて準備を進めてきた秋入学を見送り、4学期制の導入を決定した。留学生・研究者の流動を活発にするために、欧米主要大学の9月入学・6月卒業に合わせようとした動きだったが、現時点ではデメリットのほうが大きいと判断した。日本型キャリアと欧米型キャリアは、その出発点から大きな乖離があることを思い知らされたできごとだった。

 一般に、日本の雇用の特徴として挙げられるのは、終身雇用・年功序列・企業内労働組合・新卒一括採用の四本柱だが、これらがあてはまるのは、ほんのひと握りの大企業だけ。本当の日本の独自性は、「給与は仕事ではなく人で決まる」「正社員は全員が幹部候補であり、原則として出世していく」ことにある。この“公理”を出発点に、欧米型キャリアとの大きな差異が生まれていく。

 著者は、43のクエスチョンに答えるかたちで、日本型と欧米型の違いを解き明かしていく。どちらが正しいか、ではない。日本型にも欧米型にも一長一短がある。雇用システムは、風土や人々の考え方、政治や経済が変化していくのと歩調を合わせて変化していくもの。まず、長短を織りなす“公理”を知ることが大切だ。

 「データを多用せず、雇用の全体像を明らかにしたい」という著者のもくろみは成功している。「自国の『長』を見極め、また『短』もよく知り、『長』を殺さず、いかに『短』を補うかを考えるべき」という言葉は、性急な変化を企図して失敗した企業の例を知る者には重く響く。(叢虎)


『日本で働くのは本当に損なのか 日本型キャリア VS 欧米型キャリア』
海老原 嗣生 著
PHP研究所 刊(820円+税)
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