BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『桜田門外 雪解せず』

2014/12/18 15:27

週刊BCN 2014年12月15日vol.1559掲載

幕末の水戸藩の人間模様

 今回は、茨城県土浦市在住のソフトウェア開発会社の社長が著わした歴史小説を紹介する。幕末の水戸藩における藩士たちの行動と心の葛藤を主題としている。

 小説の最初の舞台は、つくば宿の旅籠だ。その宿に一人の若侍が泊まった。侍の名は藤田小四郎。夜、さちという名の飯盛女が部屋にいるにもかかわらず、一心不乱に本を読む小四郎の姿を目の当たりにした彼女は、「以前、同じように本ばかり読んでいたお侍さんが泊まったことがあります」と言った。小四郎が読んでいたのは、尊皇攘夷派のバイブルともいうべき、『新論』だった。この本を著わした会沢正志斎は、後に水戸藩を騒動の渦に巻き込んでいく人物だ。小四郎は尊皇攘夷思想の要人、藤田東湖の四男で、水戸で藩を牛耳る奸賊を糾弾する「天狗党」を率いていた。そして、かつて同じ宿で『新論』を読んでいたのは吉田松陰(寅次郎)だった。二人が出会うことはなかったが、いずれも死罪・打首で散っていくことになる。松陰の打首のお役は有名な“首斬り浅右衛門”だった。刀が振り落とされる間際に、松陰はひと言つぶやいた……。

 最終章の舞台は水戸藩。安政の大獄で攘夷派を大弾圧した井伊直弼を討つべしという声が藩内に満ちあふれた。それを先導したのは会沢正志斎だが、弾圧のあまりの激しさに、「時期尚早」と方針を翻したのだった。その犠牲になったのは、有望な三人の藩士だった。攘夷派と目される諸藩へ同時決起を呼びかけたが果たせず、幕府だけでなく水戸藩からも追われる身になった。そのてん末は読んでのお楽しみ。(仁多)


『桜田門外 雪解せず』
広田文世 著
筑波書林 刊(1400円+税)
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