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宇宙誕生以前の「無」の状態を探る

 約138億年前に誕生したという宇宙。標準ビッグバン理論の概要を習ったばかりの中学生からいい歳の大人まで、誰しもが抱くであろう素朴な疑問が、「じゃあ、誕生の前はどんな状態だったの」ということだ。何も知識のないところからそれを思い描くと哲学や宗教の領域に入っていきそうで、何やらもやもやした感覚に陥る。

 本書は、この疑問に可能な限りやさしく答える入門書の体裁を採っている。答えを先に明かしてしまえば「完全にはわからない」なのだが、解答を得ようとするアプローチ──現代宇宙論の最先端──を紹介しながら、さまざまな可能性を論じていく。解説はビッグバンとインフレーションから始まり、それ以前の「無」の状態を解明するために物理学者たちがどのような理論・数式を組み立てたのか、「このへんの概念は数式なしに説明してもあまり意味があるとは思えないので、ここでは思い切って割愛する」と大胆に省略しながら、例えば「南極には南がない」など、わかりやすい例に置き換えて理解を促す。

 アインシュタインの相対性理論やホイーラーの参加型宇宙、ホーキングの量子宇宙論が何となくわかる人は、読む必要がない。しかし、「無」とはどんな状態なのか──どんな可能性があるのか──を知りたいなら、そして宇宙論の歴史に興味があるなら手に取ってほしい。書評子はといえば、知らない言語を話す人に出会ったとき、話の内容は完全にわからなくても何について話しているかはわかる、という感覚。ちょっぴり安心した。(叢虎)


『宇宙はどうして始まったのか』
松原隆彦 著
光文社 刊(760円+税)