大阪市と東京・港区に本社を置くアイルは実店舗とECサイトに分散したバックオフィス業務の統合でビジネスを拡大させている。岩本哲夫社長は「ファンの存在が成長の根幹だ」と語り、既存顧客やパートナーとの関係性を起点に新規顧客の獲得を進める構えを示す。
(取材・文/大畑直悠)
リアルとウェブを統合
――どういった事業を手掛けているか。
自社開発の基幹業務システム「アラジンオフィス」を提供し、顧客の販売や在庫、生産管理を支援している。また、受発注システム「アラジンEC」や複数のネットショップの在庫や受発注を一元的に管理できる「CROSS MALL」なども展開している。
他社との差別化点は、実店舗や訪問営業などの「リアル」と、ECやモバイルアプリといった「ウェブ」領域の双方を一貫して支援できる部分だ。幅広い企業でネット販売が当たり前になる中、顧客はリアルとウェブで在庫管理や顧客接点が分散していることを課題に感じている。これを一元管理したいというニーズは高い。
――アラジンオフィスの特徴は。
卸・商社や建設、ファッション、食品、鉄鋼、医療などが得意領域で、幅広い業種向けのテンプレートを用意している。貿易向けの機能を備えており、食品やファッションといった業界の輸入をサポートするパッケージ機能が強みだ。組織としても業種別に特化したチームを組んで顧客のビジネス変革を後押ししている。
顧客が正しいとは限らない
――ビジネスの近況は。
順調に成長できている。競合に対する勝率は非常に高く、大手ベンダーにも勝てている。創業時から中小企業を得意としてきたが、ここ2年ほどで大企業向けの大型案件が増えている。要因としては製品の性能が追いつき、データ量などの問題で従来は対応できなかった案件を獲得できるようになったことがある。また、銀行とのパートナーシップが奏功し、大型案件を紹介してもらえていることも要因だ。
岩本哲夫 代表取締役社長
コロナ禍を機にオンラインミーティングが普及し、商圏が広がっている。大阪、東京、名古屋の3拠点を中心に、これまで地理的に対応が難しく、断っていた地域でもビジネスを展開できるようになった。最近では名古屋でのビジネスが伸びており、人材が充実したことで、大型案件も取れるようになってきた。
――なぜ競合に勝てているのか。
当社では顧客と「フィフティ・フィフティ」の関係を築くように心掛けている。顧客の要望は必ずしも正しいとは思っておらず、当社からも製品説明だけの営業で顧客に関わるようなことはしていない。これが顧客とお互いにビジネスをつくり上げていける信頼関係を生む。競合に勝つだけでなく、顧客と長期的な関係を築くために重要だと考える。
顧客にアプローチする際は、コンサルティングから関わるようにしており、上流工程のビジネスが強みだ。完全にパッケージを押しつけるつもりはないが、既存の業務プロセスにそのまま対応するようなシステムを構築するのではなく、当社が持つノウハウも生かしながら、顧客の企業価値を上げるためのシステムの導入を提案している。
「一人三役」の人材を育成
――今後の組織マネジメントの注力領域は。
世間では人材不足が言われているが、当社ではありがたいことに離職率が低く、新人採用も毎年順調だ。今後はむしろ採用の面では数を絞りつつ、AIといった技術を使いながら生産性を向上し、経費の削減を目指す。
人材育成の面では、業種業界、業務、基幹業務システムに習熟した「一人三役」ができる人材の拡充を目指す。業務という面では営業とSEの境界も徐々になくしたい。最近では既存顧客が同業者に当社を紹介し、他社と競合することなく新規顧客を獲得することも増えてきた。極端な話、われわれから営業をかける機会を減らしてもいいと考えている。展示会などでの露出や人材教育スクール「アイルキャリアカレッジ」でできたつながりから導入が決まることもあり、非常にいい循環が生まれてきている。
――パートナー戦略に対する考え方は。
当社が目指しているのは一部の業務にシステムを入れて効率化するのではなく、物流から生産、在庫など、顧客のビジネスに関わる複数社のエコシステム全体を支援し、顧客の競争力を強化することだ。パートナーが持つシステムとの連携を充実させて取り組みたい。
当社製品の紹介を担うパートナー向けの部隊も組織しており、今後さらに販売エリアを拡大する上で重視している。
――今後の抱負は。
これまでと同様に、当社を紹介してくれるファンを増やしたい。例えばEC関連では8割が既存顧客からの紹介で決まっていたりする。そのためには顧客とフィフティ・フィフティの関係に立ち、耳が痛いことも言いながら、顧客自身が気づいていないような課題を発見できるプロフェッショナルの仕事をしたい。目先の業務効率化ではなく、顧客の競争力を上げるための変革を提案すれば、当社と長く付き合うファンになってくれるだろう。
Company Information
1991年創業。2024年7月期の連結売上高は175億800万円。自社開発の基幹業務システムや受発注システムなどを展開する。関連会社も含めた従業員数は1008人(25年4月時点)。