BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『コンピュータ開発のはてしない物語』

2016/03/17 15:27

週刊BCN 2016年03月14日vol.1620掲載

コンピュータの歴史教科書

 コンピュータの歴史から、老害を連想することがある。昔のコンピュータを自慢げに話すベテランがいるからだ。どの世界でもベテランは昔話をするものだが、ITでやっかいなのは、温故知新が成立しにくいところにある。「ハードディスクは安くなったよな。おれが若い頃は……」などと言われても、ハードディスクが消えようとしている時代において、若者が耳を傾けることはない。むしろ、昔にすがらなければ自慢話ができない老害野郎だと、憐れむだけなのである。といいつつ、「お前も老害」と指摘を受けそうなので、そこは注意するとしよう。

 とにかく、コンピュータの進化は早い。コンピュータの黎明期に活躍した人たちが今も現役でいるくらい、短期間で進化してきたのである。だからコンピュータの歴史は浅いと考えがちだが、起源は3万5000年前の計算道具「タリー・スティック」にあるという。動物の骨や象牙に刻み目を入れ、数や量の記録に使われたとされる。これをコンピュータの歴史だとする発想力があれば、もはや老害とは言われないだろう。

 本書はタリー・スティックの解説に始まり、人工知能が人類を超える「シンギュラリティ(技術的特異点)」までを扱っている。ウェアラブル端末を「ユビキタス社会」と死語を使って解説しているところは気になるが、コンピュータの歴史教科書として保存する価値は十分にある。ちなみに、本書でインターネットが登場するのは、全8章のうちの7章目。若手エンジニアには、それさえも実感できないはず。やはり、昔話をしてあげたい。(亭)


『コンピュータ開発のはてしない物語』
小田 徹 著
技術評論社 刊(1980円+税)
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