老後を心地よく生きるために

 突然怒りだす高齢者は男性が多い。その沸点の低さは脳の感情抑制機能の衰えだけでは説明がつかない社会的な背景があった。ルポライターの林美保子氏は、ホテルや病院、マンション管理組合、介護施設、図書館など公共の場で激高する高齢男性の背景を丁寧に取材。本書『ルポ不機嫌な老人たち』をまとめた。

 例えば、会社という“タテ社会”で生きてきた管理職。定年退職したあと、彼は家庭やご近所、病院などとの“ヨコの関係”と向き合うことになる。ホテルの従業員や介護施設の職員は、自分の部下ではないにもかかわらず、管理職時代と同じように「命令、指示口調」で接すると、指示された側から「私はあんたの部下じゃない」と反発を食らい、人間関係に馴染めない高齢男性は一定数存在する。結局どうしていいか分からず、激高してしまう。

 おまけに「家事を妻に任せっきり」で生活能力に乏しく、昭和時代のセクハラ、パワハラが強く否定された現代においても当時の慣習を持ち込んでしまい、周囲との軋轢を生む。ただでさえ、加齢で脳や身体の機能が衰え、家族や友人を失い続ける高齢者の喪失感は“怒り”の感情に結びつきやすい。

 「不機嫌な老人」は、私たち現役世代にとって、老後を心地よく生きるためには、どうすればいいのかの反面教師になる。ヨコの関係、妻との役割分担、セクハラやパワハラに相当するような「未来の禁忌事項」をうまく回避するには、普段から社会の変化を敏感に察知し、馴染んでいく努力が求められる。(寶)
 


『ルポ不機嫌な老人たち』
林 美保子 著
イースト新書 刊(860円+税)