BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『野生のごちそう 手つかずの食材を探す旅』

2022/02/25 09:00

週刊BCN 2022年02月21日vol.1911掲載

「ごちそう」の未来を考える

 本書は米国の環境人類学者が、世界各地で食用にされている野生動物をめぐる旅を描いたノンフィクションである。世界的に有名なデンマークのレストランで蟻を食し、アフリカの密林に横行する野生肉の違法取引を追い、スウェーデンではヘラジカを狩り、ボルネオ島で燕の巣を求める。タイトル通り「野生のごちそう」に関するルポルタージュであるが、まるで詩のように叙情性に満ちた文章が印象的だ。
 

 書全体に通底しているのは、人間が際限なく肥大させてきた欲望によって失われていく野生生物や自然環境、伝統文化に対する哀悼の思い、そして、いつまでも強欲を止められない人間への諦念である。一方で、野生のごちそうを未来へ残せるのも、また人間であるという期待も示される。

 サンマの不漁をはじめ、日本でも海産物を中心に資源保全への取り組みが重要となっている。課題は水産資源だけではない。畜産も持続可能性が疑問視されている。野生の食材だけではなく、私たちが今、当たり前のように食べているものも、いつかは「ごちそう」になっていくのかもしれない。著者が言うように、その流れを変えられるのは人間だけだろう。私たちに何ができるのだろうか。(無)


『野生のごちそう 手つかずの食材を探す旅』
ジーナ・レイ・ラ・サーヴァ  著 棚橋志行 訳
亜紀書房 刊 2420円(税込み)
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