BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『まちがえる脳』

2023/07/07 09:00

週刊BCN 2023年07月03日vol.1975掲載

確率的で揺らぐ脳が生存に役立つ

 計算と記憶が多くの人にとって“苦手の双璧”であり、コンピューターはそれを補うために開発されたようなものだと本書では捉える。脳の処理方法は確率的であり、正しい答えを導くときもあれば、間違えるときもある。

 自然界では外部環境(捕食者や自然環境)が常に変化するため、画一的な答えしか出せない生き物は滅び、突拍子もない答えを出せる生き物が生き残ったからとの説が有力。たとえ突拍子もない答えの大半が間違っていても、どれか一つでも外部環境の変化に適応したものであれば、それが突破口となって生存につながる。この脳の揺らぎが、人間の創造性や奇抜なアイデアの創出に役立っているというのが著者の考えだ。

 近年、深層学習AIによって言葉や絵、音楽などを人間さながらに生成できるようになったが、「AIが自由意志を持つことはあり得ない」と指摘する。脳の生成物である意識(心)の仕組みが解明されていないのに、一部の仕組みだけを模しても「常に与えられた課題や目的に向かって動くだけ」だと一蹴する。脳が苦手とする計算と記憶をコンピューターで補完し、創造性を発揮する分野で人の脳を使ってこそ、両者の強みを生かせると言えそうだ。(寶)
 


『まちがえる脳』
櫻井芳雄 著
岩波新書 刊 1034円(税込)
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