BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『「若者の読書離れ」というウソ』

2023/09/08 09:00

週刊BCN 2023年09月04日vol.1983掲載

若者の読書の幅が増え、多様化進む

 「若者の○○離れ」の流れで“読書離れ”が語られることがあるが、実際には中高生の読書量はほとんど変わっていないどころか、むしろ増えていると編集者出身の著者は指摘する。価格を安く抑えた文庫版のライトノベル(ラノベ)市場に限っては、2013年以降の約10年で半減してしまったが、これをもって読書離れとする論が一人歩きしているとのことだ。

 大ヒットした『涼宮ハルヒの憂鬱』(2003年)に代表される文庫ラノベは、当時の中高生に広く受け入れられた。その後、一般の人が小説を投稿する「小説家になろう」の人気作の商業版、07年に登場した初音ミクで火がついたボーカロイド楽曲から派生した「ボカロ系小説」、さらには一般文芸のなかからファンタジー要素を含んだ作品が増えるなど競合が増えた結果、狭義の文庫ラノベがシェア争いで割を食った構図になっている。

 また、近年の漫画やアニメの隆盛からメディアミックスの一環として小説版の登場や、キャラクター重視(いわゆるキャラ萌え、推しキャラ)の文脈を踏襲した書籍が増えたことも影響している。これらコンテンツは、涼宮ハルヒ時代に中高生だった今の大人層にも受け入れられている点にも注目すべきだろう。(寶)
 


『「若者の読書離れ」というウソ』
飯田一史 著
平凡社 刊 1078円(税込)
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