BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『日本の絶望ランキング集』

2023/10/06 09:00

週刊BCN 2023年10月02日vol.1986掲載

賃金の伸び悩みは構造的な問題

 世界のなかの日本の経済的地位を各種の統計に基づいて浮き彫りにしている。OECD(経済協力開発機構)の統計やシンクタンク、調査会社のデータを引用し、ランキング形式にまとめられているが、そのなかでも日本の労働生産性の低さや賃金の伸び悩みの根深さが際立つ。

 比較的労働生産性が高いとされていた製造業においても、産業構造が似ている韓国より低い世界18位。上位には米国、スウェーデン、オランダが陣取る。日本は1985年のプラザ合意以降の円高を受け、人件費の安いアジアの成長国に多くの製造拠点を移してきた。国際競争力を保つためだが、これが国内の空洞化を招き、人材が育たず、「空っぽの状態になってしまった」ために、労働生産性が低下し、賃金が伸び悩む悪循環に陥ったと著者は分析する。

 資源のない日本は原油や穀物を買うための外貨獲得が至上命令であり、国内の人材育成よりも、国際競争力を保って外貨を獲得し続けなければならない構造的な問題が横たわる。世界有数の対外純資産を保有するに至るものの、一方で空洞化による国内経済の閉塞感を招く。打開策は産業構造を見直し、国内で価値を創造し、それによって外貨を稼げる仕組みをつくる以外にないと痛感する読後感だった。(寶)
 


『日本の絶望ランキング集』
大村大次郎 著
中央公論新社 刊 946円(税込)
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