BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『古代中国の裏社会 伝説の任侠と路地裏の物語』

2025/04/11 09:00

週刊BCN 2025年04月07日vol.2054掲載

歴史の日陰者

 本書の主人公として論じられているのは古代中国を生きた郭解という人物。多くの人にとっては聞いたことのない名前だろう。司馬遷が主な著者・編者となる古代中国の歴史書『史記』の「游侠列伝」に登場する。当時の法律から逸脱した振る舞いをする一方で、義理と人情を重んじる性格から民衆から大きな人気を集めたとされる人物である。

 司馬遷の史記は前漢の権力者であった武帝の時代に成立した国家公認の歴史書だ。その中で、あえて郭解のような無法者にまで光を当てているのが特徴と言える。ここから司馬遷という歴史家が時代の中枢を担った人物だけではなく、日陰に生きた人々も歴史の一部として重視していたことが読み取れる。とはいえ郭解に関する記述は膨大な史記の中でごくわずか。著者はここから、さまざまな資料などを通して郭解の生きざまに迫ろうとする。いわば歴史の大局から外れた、本来であれば歴史に名を残すはずのない人物の姿を実証的に浮かび上がらせようとする試みである。

 時に法律を破ることをいとわない郭解の生き方については賛否が分かれるところではある。ただ、歴史の動きを捉えるためには時代の表舞台だけではなく裏側に目を配ることも重要なはずだ。(石)
 


『古代中国の裏社会 伝説の任侠と路地裏の物語』
柿沼陽平 著
平凡社 刊 1100円(税込)
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