BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『サム・アルトマン 「生成AI」で世界を手にした起業家の野望』

2025/11/07 09:00

週刊BCN 2025年11月03日vol.2081掲載

AI時代の寵児、志は本物か

 原題は『The Optimist(楽観主義者)』。米ウォールストリート・ジャーナル紙の記者が米OpenAI(オープンエーアイ)創業者でCEOのサム・アルトマン氏や周辺人物を取材し、圧倒的な情報量で本人の歩みと人間性をあぶり出している。

 「全人類に利益をもたらす汎用人工知能(AGI)の開発」という同社の理念には、経済的成功のみならず公共性への強い意志が宿る。彼が倫理観を追求するようになった素地は何か。家族や幼少期の影響を読み取れる部分が本書にある。

 不動産開発業の父は低価格住宅の普及に携わった。人種差別によって居住区さえ分断された時代に、貧困層向けの開発事業を官民連携で行うように提唱。政治的行動を交えながら訴え、理想主義者の側面を持っていた。利益目的ではないとうたい、社会的意義を示して語る行動手法は、長男であるアルトマン氏にも受け継がれていると筆者は解説する。

 アルトマン氏は少年時代にユダヤ教の礼拝所に熱心に通った。そこで世界を修復することが人間の使命と学んだという。こうした原体験に現在の志の在りかを見ると同時に、技術革新の根幹には倫理と理想があると認識させられた。(潤)
 


『サム・アルトマン 「生成AI」で世界を手にした起業家の野望』
キーチ・ヘイギー 著 櫻井 祐子 訳 
ニューズピックス 刊 2530円(税込)
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