グローバルITディストリビューターであるTD SYNNEXは、米Broadcom(ブロードコム)との契約に基づき、2025年2月から企業向けセキュリティー製品「Symantec」および「Carbon Black」ブランドの取り扱いを開始した。製品開発と提供モデルの特徴、国内市場での反響について、ブロードコムビジネス部門の松澤太郎・部門長に話を聞いた。
企業セキュリティーを支えてきた「Symantec」と「Carbon Black」の現在
SymantecとCarbon Blackといえば、企業向けセキュリティー分野で高く信頼されているブランドだ。Symantecは企業向けセキュリティーで核となる技術や製品をいち早く市場に投入してきたため認知度も高い。例えば、Secure Web Gateway(SWG)製品群では、Webトラフィックを「検査してから通す」というゼロトラストの思想をプロキシー技術と脅威インテリジェンスを融合することで実現している。また、DLP(情報漏えい防止)では多様なチャネルを横断的に監視し、一元管理できる点や、ふるまい検知との連携で誤検知を抑制する仕組みなどが高く評価されている。
一方、Carbon BlackはクラウドベースのEDRを中心にファイルレス攻撃やゼロデイ脅威への対応力に優れており、仮想化基盤やクラウド基盤に強みがある。これらを組み合わせることで、ネットワーク、データ、エンドポイントの広範にわたり検知、防止、対応のセキュリティー体制を構築できる。
松澤部門長は「ブロードコムによる過去の買収を経て、現在、SymantecとCarbon Blackは同社のESG(企業向けセキュリティーグループ)が担当するセキュリティーソリューションとなっている」と話す。日本市場では、TD SYNNEXがSymantecおよびCarbon Blackブランドの法人向けエンドポイント製品の国内独占販売代理店契約をブロードコムと締結し、25年2月からセキュリティーソリューションを提供している。「TD SYNNEXはグローバルなITディストリビューターだが、もともと日本法人は関東電子機器販売として日本で創業した企業で、現在はグローバルネットワークを有しながら日本に根ざした企業として、米TD SYNNEX(ティーディーシネックス)グループの一翼を担っている」(松澤部門長)。
ブロードコムビジネス部門
松澤太郎
部門長
ブロードコムの製品戦略の転換からTD SYNNEXとの分業体制へ
松澤部門長は「TD SYNNEXがブロードコムに代わってエンドユーザーやパートナーに向き合う事で、これまで生じていた課題をしっかり解決していく」と決意を述べる。周知の通り、Symantecのエンタープライズ部門は19年にブロードコムに買収され、Carbon Blackは19年に米VMware(ヴイエムウェア)に買収された後、23年にブロードコム傘下となった。その影響でライセンス体系や販売チャネルが変更され、見積りから購入までのオペレーションで混乱が生じるなど、不安や戸惑いを抱えるユーザーもいた。そうした中ブロードコムはSymantecとCarbon Blackについて新たなパートナーシップ体制を導入し、現在はブロードコムが技術開発や製品戦略に専念し、TD SYNNEXがマーケティングや営業を担う分業体制を敷いている。
分業体制で注意すべきはVMWareとは背景が異なる点だ。松澤部門長は「われわれが取り扱うSymantecとCarbon Blackは、ブロードコムのESG(企業向けセキュリティーグループ)が担当している」とする。これはVMWareとは異なるグループであり、「24年からはESGのゼネラルマネージャーにブロードコムのバイスプレジデントを務めるJason Rolleston氏が就任し、大きな戦略の転換も打ち出している」(松澤部門長)ということだ。
これまでSymantecやCarbon Blackは大企業にフォーカスした戦略をとってきており、大企業の顧客の要望に応えて製品開発を進めてきた。しかし今後は「“すべてのお客様にエンタープライズレベルのセキュリティーを”というスローガンを掲げ、中堅・中小企業にも幅広くソリューションを提供できる戦略に転換している」と松澤部門長は話す。
エンタープライズレベルの企業セキュリティーを中堅・中小企業にも幅広く提供
分業体制はそうした戦略を実現する為に構築されたものだ。ブロードコムは継続的な製品開発に専念し、TD SYNNEXが日本の商慣習などを踏まえた上でマーケティングや営業活動、サポートも提供していく。日本市場の特徴について松澤部門長は「日本は少子高齢化により人口が減少し、それに伴って情報システム部門の人材も不足する中、企業はますます巧妙化するサイバー攻撃への対応を迫られている」とする。セキュリティーソリューションは導入して終わりではなく、その後の運用もしっかり対応していかないと確実に防御できない。
そこで、SymantecとCarbon Blackの包括的なセキュリティー製品ラインアップが強みとなる。ネットワーク、データ、エンドポイント、メール、クラウド、ID/アクセス管理といったセキュリティーに必要な機能を広範にカバーしていることに加え、今後はそれらの機能を統合的に管理する事を目指して製品開発に向けた投資を進めている。
TD SYNNEXが担う信頼回復と運用支援
ブロードコムとの密接な連携体制により、TD SYNNEXはディストリビューターでありながら、限りなくベンダーに近い立場で価格設定を含めた広範囲で裁量権を握る。これにより、価格の不安定さや手続きの遅滞といった、これまでの課題は解消することが期待される。
ブロードコムは製品開発を担い、TD SYNNEXがマーケティングや営業活動、サポートを提供する
実際に25年2月以降、松澤部門長はパートナーとの会話を通じて「見積もりの提出や納品までのリードタイムなど、営業オペレーションの改善が顕著だとの評価を得ている」と話す。製品サポートではSymantecなどで長い経験を持つエンジニアを採用するなど人材面でも強化しており、継続した投資によって一度離れた顧客が再びSymantecを選ぶ動きも出てきている。
「SymantecとCarbon Blackは非常に信頼性が高く、優れたブランド。ブロードコムが継続的に製品開発に投資して改善に取り組む姿勢は改めて強調しておきたい」と松澤部門長は話す。昨今、ランサムウェア被害が続き、サイバーセキュリティーの脅威が高まる中で、「TD SYNNEXは信頼回復に努め、確実な防御を可能とする信頼性の高いソリューションをパートナー様と共にお客様に提供していきたい」とメッセージを送る。