店頭流通

主役に躍り出るか、「モバイルパソコン」 メーカー各社の戦略とは

2002/06/10 16:51

週刊BCN 2002年06月10日vol.944掲載

 パソコン夏商戦は前年を5%程度下回る(ソニーマーケティング)――。厳しい予測の声が聞こえてくるなか、メーカー各社は、次の“市場創出”に向けた動きを始めている。キーワードは「モバイルパソコン」。無線インターネットなどを追い風に、1人1台から1人複数台の普及へ弾みをつける考えだ。しかし、モバイルパソコン戦略に関するメーカーの取り組みは温度差が大きく、慎重論も根強い。(安藤章司●取材/文)

用途提案次第でブレイクの可能性も

●ソニー優位の市場、各社各様の戦略

 5月の月間BCNランキングによれば、パソコン、PDA(携帯情報端末)全体に占めるB5薄型以下(PDAを含む)のモバイルパソコン比率は、台数ベースで19.2%、金額ベースで13.5%。このB5薄型以下モバイルのうち、ソニーの占める割合は実に台数で約60%、金額で約63%を占める。

 激戦のPDAでも、ソニーは台数で35.4%、金額で46.7%。ソニー優勢のモバイル市場だが、この市場を大きいと見るか小さいと見るか、メーカーによって意見が分かれる。

 NECカスタマックスの越坂悦大・商品企画部マネージャーは、「モバイル分野で機種を増やしても、1機種あたりの販売台数が減るだけで、総販売台数は大して増えない。『バイオU』のような製品は出そうと思えばいつでも出せる。だが、この分野が今後どこまで拡大するかが不透明なので踏み込めない」と、小さいパイの中に敢えて踏み込んで怪我をするよりは、いましばらく参入機会を探るべきだと話す。

 モバイルでソニーを追いつめようとするシャープの川森基次・パソコン事業部長は、「現在のモバイル比率2割(台数ベース)は少な過ぎ。年内にはバイオUに対抗する『コンパニオンPC(パソコン)』を投入する。超薄型軽量の『ムラマサ』の用途を調査してみると、意外にムラマサ1台で何もかも完結している利用者が多い。つまり、メインマシンとして小型デスクトップ代わりに使っているということだ。これではモバイルは広がらない」と、手放しで広がるモバイル市場ではないと指摘する。

 東芝のPDA部営業推進担当・土肥香織主務は、「世界最薄の『ダイナブックSS』、A5型の『リブレット』、PDAの『ジェニオ』と一通りモバイルは揃えた。だが、すぐに1人2台、3台と増えるわけではない。今のPDAにしても、『女子大生やOLがもつか』といえばそれは無理。価格が高いという問題もあるが、そもそも必要かどうかもわからない。いきなり一般家庭に売り込むのではなく、まずはサラリーマンを中心としたビジネス用途の個人向けに売り込むのが賢明」と考える。

●市場規模の拡大に期待、新たな用途提案が必要

 ソーテックの大邊創一社長は、「デスクトップやノートなど、決まった形状ばかりでなく、新しい用途を提案できる余地は多い。家庭用パソコンの年間販売台数500万台弱というのはまだ少な過ぎる。最低でも家庭用だけで年間1000万台はいく。このためには、新しい用途に合わせた新しい形状のパソコンを出していく必要がある。失敗することもあるだろうが、果敢に挑戦すれば市場規模は今の2倍に伸びる」と、持論を展開する。

 ソニーマーケティング・バイオマーケティンググループの中牟田寿嗣統括課長は、「バイオ事業は、大きく分けて、(1)パソコンビジネスに勝つ、(2)自社製品をつなげて売る、(3)顧客とつながる――という3つの段階がある。(1)はデスク、ノートともにトップシェアを獲った。今は(2)の段階に来ている。ノートやPDA、MDウォークマン、デジタルカメラ、ビデオカメラなど、すべてのモバイル機器がつなげて売る」と意気込む。

 ソニーは、小型軽薄パソコンだけがモバイルではなく、MDウォークマンやデジタルカメラ、ハンディカムなど、デジタル機器全般をモバイルコンピューティングの延長線上に位置づけて拡販に力を入れる。

 1人に同じような機能のパソコンを何台も買わせるのはまだ難しいものの、ビデオカメラやデジカメ、MDウォークマンを「モバイルコンピューティング」だと解釈すれば、“つなげて売る”ことも可能になる。

 シャープの川森事業部長は、「モバイルパソコンを本格的に立ち上げるには2つの要素が欠かせない。1つは、机の上に置かなければ使えないノートパソコンの構造を改める。机の上に置いて使う従来型のB5薄型パソコンでは、モバイル比率“2割の壁”を超えられない。もう1つは、ホームサーバーやホットスポットとの連携を深める。将来的にモバイルがホームサーバーなどとつながることで、情報を家庭内から外出先へ継ぎ目なく持ち運べる。この仕組みをつくることで、モバイル市場は飛躍的に拡大する」と、分析する。

 NECカスタマックスの越坂マネージャーは、「モバイルパソコンは、仕事かマニア、学生の市場しかないのが現状。軽量ノートでも1㎏ほどあり、携帯電話で換算すれば10台近くなる。携帯電話10台分の重さを乗り越えられるサービスやアプリケーションが揃わないうちは、決定的な突破口にはならない」と慎重だ。

 ソニーは、MDウォークマンなどモバイルAV(音響・映像)機器の切り口で攻める。

 一方、東芝は“ビジネスパーソン(企業内個人)”に優先順位を置く。NECは、まずサービスやアプリケーションの開発に力を入れる。シャープはホームサーバーやホットスポットとの連携を重視する。

 頭打ちのパソコン市場の突破口を開くため、各社それぞれの角度からモバイル市場を模索し始めている。
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