店頭流通

規模勝負になったソフト市場

2002/10/07 16:51

週刊BCN 2002年10月07日vol.960掲載

 本紙956号の1面で、ソフトベンダー同士の販売提携が相次いでいることを取り上げた。その後も、オン・ザ・エッヂのプロジー買収などの動きが続いている。ソフトベンダー同士の販売提携が増加した要因は、流通環境の変化である。(三浦優子●取材・文)

新しいものを生み出す

 パソコン産業の創世期には、メーカー、卸、販売店が一体となって商品を育て、ヒットを生むというサイクルがあった。その代表がジャストシステムの「一太郎」である。ワープロソフトとしてはむしろ後発だった一太郎は、製品力と共に全国の販売店に商品を紹介する営業戦略が功を奏し、日本を代表するソフトへと成長した。

 ジャストシステム・浮川和宣社長は、「卸にも販売店にも、一緒にソフトを育てていくという意気込みがあった」と当時を振り返る。しかし、今は市場が拡大し、流通環境は大きく変わった。コジマ、ヤマダ電機を代表とする全国展開の家電量販店や、ヨドバシカメラ、ビックピーカンのようなカメラ量販大手に対する営業は、各店舗個々に行うのではなく、本社に働きかけをしなければならない。そうなると、卸の役割も大きく変わる。一太郎時代のようにメーカー、販売店と一体になって商品を育てるのではなく、物流が主な業務となる。

 店頭で大きな支持を受けているソースネクストの松田憲幸社長は、ショップでの商品販売に大きなこだわりを見せながらも、「卸の手を借りて商品を店舗に訴求するのではなく、自社の責任で商品をアピールする」と語る。「店頭は顧客を獲得する重要な場」と認識しているのは、かつてのパソコン業界創生期と同様ではあるものの、松田社長は、一太郎が流通を制し、市場を制したといった過去の歴史を全く知らないという。

 「自分たちが商売を始めた当時、店頭で積極的に営業を行うメーカーはほかになかった。当社が店頭営業を強化するようになってから、同様の手法を使うメーカーが増えた」という。卸にも、「商品を育てる手助けは期待しない」と自社の規模で市場を開拓する。つまり、ソースネクストはジャストシステムがとった方法を再現しているのではない。現在の流通環境を分析した結果、店頭での営業を強化していくという方法をとった。多くのソフトメーカーがこの手法に活路を見いだし、躍起になって店頭を攻めている。できるだけ多くのスペースを確保できるよう、量の戦争となっているのが現在の状況である。

 あるソフトメーカーはその様子を見て、「自分たちのつくった商品が食い尽くされるのではないかという危機感を覚える」という。「卸にも、販売店側にも、商品を育てるという気持ちがない。それだけに、売れる時だけの使い捨てにされていくのではないか。新しいものを全く生み出さない営業強化だけが続いていくのではないか」確かにソフト売り場はパソコン販売が好調だった頃から、決してよい状況にあるとはいえなかった。パソコンの販売状況が不振の今、ソフト売り場は縮小傾向にあり、目立つところに並んでいるのは特定メーカーの商品か、実績のある定番ソフトに集中するようになった。ソフト市場はどこに向かおうとしているのか。「量の競争でスペースを確保していくだけでは、新しい市場は育たない」ソフトメーカーから出た悲鳴ともとれる声が、妙に切実に響いてくる。
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