店頭流通

デジタル家電を続々投入 独自性を模索するアイ・オー・データ機器

2002/12/02 18:45

週刊BCN 2002年12月02日vol.968掲載

 ソニーよりも、一歩先を行くモノづくりを!――。アイ・オー・データ機器の島田武次常務取締役は、こう社員に発破をかける。冬商戦に向けて、BSデジタルハイビジョン放送対応ハードディスクレコーダー、携帯電話に接続して使うモバイルGPS(全地球測位システム)、小型デジタルビデオ、MP3対応超薄型CDプレーヤーなど、家電メーカー顔負けのデジタル家電新製品を続々投入。デジタル家電製品の統一ブランド「AVeL(アベル)」も立ち上げた。昨年度(2002年6月期)は、上場来初という13億円余りの大赤字を出した同社だが、デジタル家電で中興を狙う。(安藤章司●取材/文)

マルチメディア技術をどう生かすか

記憶デバイスが中心

 「レコーダーやプレーヤー、ビデオカメラなど、まるで“ミニソニー”みたいな品揃えになってきたが、これこそがマルチメディアに強いアイ・オー・データ機器の進むべき道。先駆者として、どんどん先端需要を先取りし、大手家電メーカーの追随は許さない」――。7月の構造改革で誕生したマルチメディア事業部を統括する島田常務は、こう意気込む。

 アイ・オー・データ機器の売上構成比は、メモリ・ハードディスクなど記憶デバイス中心のパソコン周辺機器分野が全体の3分の2を占め、残り3分の1をネットワーク機器とマルチメディア事業が占める。マルチメディア事業部のなかでは、液晶ディスプレイの売り上げが半分を占め、独自のデジタル家電といえる製品の売上比率はまだ微々たるもの。デジタル家電分野をどう伸ばすかが、今後の最重要課題である。

 島田常務は、「売り上げの3分の2を占めるメモリ・ハードディスクは、価格以外の差別化が非常に困難。自社の独自性が入らないものには、遅かれ早かれ見切りをつける。得意のマルチメディア技術を生かし、映像関係、家電との融合、パソコンの側からのデジタル家電の提案など、さまざまな切り口で新市場開拓に取り組む」と話す。

 マザーボードの在庫評価損などで、9月中間決算で4億1900万円の最終赤字を出したバーテックスリンクの由利義和社長は、「台湾から仕入れて売るという付加価値のないビジネスはやめる。MPEGやJPEG、MP3を自由に再生できるDVDプレーヤーなど、パソコンの側から発想するデジタル家電を積極的に展開する」と話す。デジタル家電に向けた基本路線は、奇しくもアイ・オー・データ機器と通ずるものがある。

売り方に工夫が必要

 アイ・オー・データ機器のデジタル家電製品を見ると、大手家電メーカーが手を出していない領域の製品ばかりで、思わず欲しくなるものも多い。だが、問題はこれをどう売るかだ。たとえば、携帯電話に接続して使うGPSをどこで売るべきか。GPS単独で位置を記録できるため、登山やサイクリングなどのアウトドアでも需要がある。「パソコン売り場なら、アイ・オー・データ機器のブランドは強いが、登山専門店やスポーツ自転車店でブランドを浸透させるのはこれからの仕事」と、販売チャネルは未開拓のままだ。

 ハードディスクレコーダーも、本来なら家電売場で売るべき商材だ。だが、パソコン売場から、そう簡単に家電売場へは進出できない。両商材の粗利率が違い過ぎるからだ。パソコンの粗利は5-10%。これに対し、家電は20-30%はある。家電売場で「お勧め商品」の札がかかっている商品の粗利はだいたい30%。仮に粗利が10%しかなければ「売ってはならない商品」に分類され、まず売れない。

 島田常務は、「メーカーとして、顧客から指名が来るような人気製品をつくるしか克服する方法はない。指名が来れば、マウンテンバイクの店だろうが、街の家電店であろうが、必ず商品を並べられる」と、粘り強く取り組む。デジタル家電メーカーへの挑戦は、まだ緒に就いたばかりだ。
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