店頭流通

<本紙駆け出し記者 鍋島の突撃ルポ>店頭で見た、聞いた 番号ポータビリティ商戦

2006/11/06 17:00

週刊BCN 2006年11月06日vol.1161掲載

 10月24日、携帯電話番号ポータビリティ(MNP)スタートの当日。「携帯業界に激震」、裏には「ソフトバンク反撃」「携帯ビッグバンの予兆か」と派手な見出しが踊る「速報新聞」が配布された。実はこれ、ソフトバンクの販促チラシ。「予想外」に盛り上がった商戦だが、思わぬところに「予想外」のつまづきが待っていた。(鍋島蓉子●取材/文)

新料金プランに客も踊る

 27日、ビックカメラ有楽町店の携帯電話売り場は金曜日にもかかわらず混雑していた。ソフトバンクが新料金プランを発表して以来、「ピーク時には通路が通れなくなるほど」(原澤友之主任)で、殺到する問い合わせ電話で回線がパンクした。しかし、この料金、一見すると単純に「全機種タダ」のように見えるが、料金体系は複雑。「スーパーボーナスが発表された時は店頭持ち帰り価格0円とはいうものの実は頭金は徴収される仕組みだった。今回の新スーパーボーナスも、端末は0円になるのではない。メディアで聞く内容とは違うため、説明が難しく、時間がかかる」と複数の量販店の担当者が口を揃える。ある店舗では「問題が起こりうる。説明責任は誰がとるのか」と手厳しい反応も。新料金プランの人気に「このままでは土、日の混雑はどこまでひどくなるか」と不安を漏らす店もあった。

 この不安が別の形で的中したのが翌28日。システム障害が発生したのだ。ところが不思議なことに客足は絶える気配がない。

 ヨドバシカメラマルチメディアAkibaでは28日の夜8時を過ぎてもソフトバンクのブースは盛況だった。他キャリアの販売スタッフは「ブループラン、オレンジプランってあからさまにドコモとauにけんかを売ってるじゃないですか」と憤る。「今むこうは100人以上4時間待ちですよ。こちらならすぐにでも手続きできますから」と客に呼びかける場面も見られた。翌29日もソフトバンク機種変更・新規契約で300-400人待ち、対応に2-3時間を要した。

厳しさ増す新プランの評価

 現場の忙しさは変わらない。MNPが再開した月曜日午前11時頃でも12人待ちという状況に「ここで突っ立って待ってなきゃいけないの」といらつきを見せる客もいる。ヨドバシカメラの岩間進マネージャは「料金プランのカタログを店頭に出しても、1日経たずになくなってしまう。コピーする暇もなかった」と、壮絶だった接客ぶりを振り返る。ちなみに同店では顧客が10人いるとして「各キャリアへの転入率はau4人・ソフトバンク4人・ドコモ2人の割合」だった。今までは店側から推奨プランを進めていたが「お客さんのほうからプランの説明を求めるようになったのはいい傾向。ソフトバンクを利用する顧客がどんどん増えるのでは」と期待する。

 しかしソフトバンクの料金プランに対する評価は明らかに変わってきたように感じられる。「0円といえば消費者は飛びつく。ソフトバンクの新料金プランってどうなの?」と量販店の担当者は疑問を投げる。「新スーパーボーナスに加入したら、一定期間解約できない条件が付く。失敗したなと思ってもキャリア替えが容易ではない」からだ。27日に行われたNTTドコモの会見では、中村維夫社長が大きく表示された「¥0」広告は「アンフェア」と非難した。30日、公正取引委員会がソフトバンクの広告に対し説明を求めたと報道された。プランに関しては「じゃなくって分割なんでしょ、詐欺っぽくない?」と声をあげる消費者もいる。

勝敗まだどちらとも

 他キャリアの状況はどうか。「auはいまいちインパクトがない」と専門店担当者が評価する一方で、着実にMNPの転入数を伸ばしている。10月29日時点で10万人を突破。「やはり機能、デザイン性で消費者に受けているからだろう」と同担当者はみる。KDDI広報部も「どこでもつながる3Gや、機能が支持されているからだ」と自信をみせる。

 量販店の店頭ではソフトバンクに集客力がある光景を目の当たりにした。auはショップ、量販店のどこでMNPの転入数を伸ばしたかとKDDIに問うと、「それは公表していない」とのことだった。

 ドコモは、6万人の転出があったものの、年明けに向けて新機種を順次投入する計画だ。また、ドコモには年配向けの「らくらくフォン」という武器がある。携帯のシェア争いは、全機種そろった年末商戦、3-4月の春商戦までみないとどういう結果になるか分からない。新しい機種が投入されることで、ドコモの転入数が多くなる可能性もまだまだ否定できない。「日本人は新しもの好きだから」とは店舗担当者の評だ。
  • 1