iPadなどの電子書籍に対応する端末やスマートフォンが普及してきたことで、スキャナ市場が活気づいている。BCNランキングでの2010年7月の前年同月比は、販売台数・金額ともに約2倍の売れ行きを記録。好調の背景には、ビジネスマンが紙の書類を電子化して管理する用途のほか、まだ出版点数が乏しい電子書籍を自分で作ってしまう「自炊」ブームがある。ただし、メーカーや量販店では、著作権などの問題から、自炊についての対応は分かれている。


コンテンツの不足から「自炊」が立ち上がる

 アップルのiPadをはじめ、シャープのGALAPAGOS(ガラパゴス)、ソニーのReader(リーダー)など、2010年は電子書籍を楽しむことができる端末が続々と登場した。シャープとソニーは、端末発売と同時に電子ブックストアサービスを開始したが、それは12月に入ってから。それ以前は、日本語で読める電子書籍は非常に少なく、大きな“書店”もない状況だった。

 そこでiPadなどのユーザーたちが注目したのが、自分で所有する雑誌や書籍、漫画を裁断機でカットし、スキャナで電子化するやり方。一般に「自炊」と呼ばれる方法だ。自炊のメリットは、大量の書籍をデータとして保存できること。また、書籍を画像化してしまうことから、PDFやJPGなど汎用性の高いフォーマットなら、閲覧する端末を選ばないという点だ。

 5月のiPad発売からムーブメントとして盛り上がり、自炊に必要不可欠なスキャナの7月の前年同月比は、販売台数で93.6%増、金額で99.5%増を記録。その後も台数・金額ともに2ケタ増が続いている。

 なかでも、スキャンしたい書籍を大量にローラーで取り込んで読み取るシートフィード型が好調で、09年10月に29.6%だった販売台数構成比は、10年10月は41.1%まで拡大した。

 では、スキャナに関わる販売店やメーカーは、この自炊ブームをどう捉えているのだろう。

メーカーと販売店 割れる自炊への対応

 自炊をスキャナのアピールに活用しているのは、ビックカメラ池袋本店パソコン館。サプライコーナーの小豆匠専門相談員によると、「スキャナは、以前はサラリーマンが多く購入していたが、iPad発売後は女性や学生、年配のお客様にも購入されている」という。これを受けて、今夏から自炊コーナーを設置。書籍の裁断からスキャナでの読み込み、書籍データを電子端末で閲覧するまでの「自炊法」を実演している。

 自炊については、メーカーによって対応が分かれる。10月のスキャナのメーカー別・販売台数シェア2位のPFUは、自炊が立ち上がった当初は、著作物がインターネット上で悪用される可能性があることから、中立的な立場から傍観していた。しかし現在は、「自炊はユーザーが著作物のルールを理解したうえで、あくまでも個人で楽しむもの」(松本秀樹・販売推進部統括部長)と認識し、海外の展示会などでは、スキャナの用途の一つとして自炊を紹介するなど、アピールに活用し始めている。

 対して、10月のメーカーシェアで1位のキヤノンは、「メーカーとして、自炊を積極的にアピールすることはできない」(ページプリンタ企画部IMS企画課の神田英彦氏)として、紙の書類を電子化して管理する用途を中心に、ビジネスマンに訴求する。

 PFUは「シートフィード型スキャナを購入しているユーザーのおよそ3分の1が自炊をメインに使っている」(松本統括部長)とみており、自炊がスキャナ好調の要因の一つであることは間違いない。しかし、メーカーによっては、自炊を前面に押し出すことは難しいようだ。

 一方、書類を電子化して管理する用途では、両社ともに、クラウド型サービスに注目している。今後は、「Evernote(エバーノート)」などに電子化した書類をアップして、整理・活用するなどの使い方を提案していくという。 紙の書類を電子化して仕事の効率アップを図る動きは、まだ始まったばかりだ。電子書籍のコンテンツが充実してきたとしても、所有している大量の書籍を端末一つで楽しめるという自炊のメリットは捨てがたい。スキャナの好調は、当面続くだろう。(武井美野里、井上真希子)

ビックカメラ池袋本店パソコン館の自炊コーナー。
裁断機、スキャナ、PC、iPhoneを使って、「自炊法」を実演してアピールする